「専業主婦の妻ありき」の海外赴任に物申す 「妻の就労ブロック」へのぬぐえない違和感

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ただ、その保険や、先述の渡航費などを自身で解決できれば、夫の会社が「妻の就労ブロック」する権利はないはずだ。配偶者の就労は「原則禁止」としている企業が、自身でビザや保険の手配をすればOKという但し書きを入れてくれれば、企業の人事側も働きたい妻たちも逐一模索や交渉をしなくて済むのではないか。

配偶者はケアをすべき存在?

ただ、本当の課題は制度だけではないかもしれない。マミさんは「そもそも制度の内容以前に、制度があっても、承認を受ければ配偶者が現地就労できることを知らない人が社内に多すぎること、また、帯同する妻は現地で働く必要ないだろう、という暗黙の了解が一般的に大きなハードルではないか、と思いました」と話す。

シンガポールに帯同してきた駐在妻アスカさん(仮名)も、夫の会社ブロックを受けた1人だ。夫自身も「うちの会社に迷惑かかったらどうするの」と否定的。どんな迷惑を想定しているんですかね?と聞くと、次のように語った。

「結局のところ、異国の地に転勤してきて、妻は出張も多い夫をサポートすべきという観念が強いんだと思います。妻が働くことによって、子どもや夫のケアができなくなったらどうするの?ということなんじゃないかと」

確かに、国によってそもそも帯同ビザでは働けないケースや、安全性の確保が難しいと考えられる場合もある。企業側に言い分を聞くと、シンガポールのようにこれらの基準がクリアできている国があっても「その国だけ認めると不公平だから」「多くは働きたいと思っていない奥さんばかりだから」という声が出てくる。

ただ、国によって状況が大きく異なり、社内の「公平感」ばかり気にしていられないのがグローバル人事だ。日本の論理を引きずらずに、最適な対応をしていかなくては人材も引き留められなくなる。

そもそも、転勤という仕組みは、家族の事情を踏まえず、また専業主婦がサポートすることを前提としている側面が強い。

労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏は『女性活躍阻む「日本型転勤」はなぜ生まれたか』で、次のように述べる。

どんな仕事にも、どんな職場にも配転されることが、解雇という最悪の事態を避けるための必要悪として労使双方により受け入れられ、やがて高度経済成長期には、必要性がどれほどあるのかわからなくても、定期的な配転が制度として確立し、妻や子どもたちを引き連れて全国を転勤することがごく当たり前の現象となりました。
高度成長期において、労働者とは男性であり、その妻は専業主婦かせいぜい小遣い稼ぎ程度のパート主婦であることが前提とされました。これはそれなりに合理的な社会制度であったといえましょう。

 

総合職として働いていれば、いつどこに転勤辞令が出ても、家族の状況がどうであれ、断れない。これが濱口氏の言う日本の「メンバーシップ型雇用」だ。従来、家族の状況を一切考慮せずにこのような働き方を成り立たせることができたのは、妻は専業主婦であるという前提があったから。

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