ところが、この合理性はとっくに崩壊し始めている。共働きが増えるなか、夫か妻どちらかの転勤により、これまで二人三脚で生活をまわしていた夫婦ほど、子育てを中心とする生活が成り立たなくなってしまう。介護も従来は専業主婦の「嫁」の役目とされることが多かったのが、現役で働く男女が老親の介護に対応しようとすれば、転勤が即離職にもつながりかねない。
母子赴任に対応しはじめた企業
単身赴任か、家族が帯同する場合は妻が子どもの学校や自宅のケアを行う――。いずれにしても男性か独身者の赴任を前提とし、転勤する本人は誰かのケアを担う必要がない想定だった日本の転勤。しかし、子どものいる女性にも辞令が出るなかで、さまざまな形の転勤のあり方が出てきている。
数年前、自身の転勤で、NYに派遣されることになったエミコさん(仮名)。夫は別の外資系企業に勤めていたが、NYの本社への異動希望を出し、かなえることができた。しかし、微妙に出発時期がずれてしまい、夫は後から追いかけてくることに。
エミコさんが子どもとNYに出発し、業務がいきなりスタートするなかで住む場所や子どもの預け先を確保しなければならなかった。そういった手続きのために外出する際、子どもを見てもらう人さえ適切な預け先がわからない。そこで子どもの祖母である実母に当初来てもらい、数週間サポートをお願いした。
仮に夫の帯同予定がなく、実母が帯同家族として認められれば渡航費が出る余地があった。しかし、後から帯同家族としての夫が来るだけに、費用は基本的に自分持ちに。帯同する配偶者(この場合は夫)側にも仕事があり、それなりの事情があることは、やはりあまり想定されていないと言えそうだ。
日本企業の転勤スタイルは、夫婦で役割が完全に入れ替わっていれば問題はないかもしれないが、女性の赴任や共働きが増えるに伴い、「子どもの同伴やケアは専業主婦の配偶者が担う」という前提のほころびが浮かび上がる。
従来の海外赴任は、男性が赴任者としてまず赴任して住む場所を整え、働き始め、その後数カ月して妻が子どもたちを連れて帯同するというケースが多かった。この場合、学校の見学や手続きは夫が先にしておくこともできるし、妻が来てから夫婦で協力して担うこともできる。これでも赴任者本人もサポートする妻側も十分大変だが、片方が子どもと同時に赴任となるとさらに過酷だ。
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