千代田化工を襲う「熟練工不足」という伏兵 今期1050億円の最終赤字で、継続疑義注記も

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問題は、賃金高騰が単なる作業員不足ではないことだ。優秀な熟練技能工の数は「元々限られている上、本格化しているハリケーンの復興工事に人をとられている」(山東社長)。アメリカのトランプ政権の移民政策の影響も相応にあり、熟練工がビザの期限切れで帰国しているケースもあるという。ある業界関係者は「メキシコ湾岸では近年のシェールオイル工事で熟練工の取り合いが起きている」と指摘する。

「一刻も早い再生に取り組む」と話す千代田化工の山東理二社長(記者撮影)

他プロジェクトも保守的に見直したことで「これ以上の損益悪化要因はない」(山東社長)とする。しかし、2019年3月期は1050億円の最終赤字に転落する見通しだ。2018年3月末に37.5%あった連結自己資本比率も2018年9月末に12.7%にまで落ち込んだ。

エンジニアリング工事の入札参加要件として30%の自己資本比率を求められる。具体的な増資の引受先について、山東社長は「筆頭株主である三菱商事や取引先銀行とコミュニケーションを続けている」と述べるにとどまった。

東洋エンジは営業黒字に転換

一方、同じく北米案件に苦しめられたのが東洋エンジニアリングだ。2016年から建設を始めた日系化学メーカーのエチレン工場でトラブルが発生。工事初期から地盤の問題で計画通りに杭打ちが進まず、2017年に襲ったハリケーンで工事が遅延することとなった。

東洋エンジニアリングは2018年4月から施工態勢を一新。それまでマグダーモットが担当していた工事に、新たに2社を参加させることで要員を確保。さらに東洋エンジニアリングから派遣する現場管理員を増強して進捗管理を徹底した。かかった追加コストは約585億円にのぼるが、配電や電気工事のピークを乗り切り、「ようやくプロジェクトの完了を見通せる段階になってきた」(芳澤雅之専務)。業績も3期ぶりの営業黒字に回復する見通しだ。

数年前の原油安から脱し、エンジニアリング業界の受注環境は改善基調にある。特に日揮や千代田化工の得意とするLNGプラントは金額も大きい。千代田化工の山東社長も「足下の受注環境は悪くない」と強調する。だが、まず千代田化工が取り組むべきは目の前の案件を確実に処理し、会社の財務基盤を立て直す道筋を描くこと。今問われているのは経営陣のマネジメント能力だ。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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