セコムが人材確保に見せる並々ならぬ危機感 実は「元祖IoT企業」の顔を持つ最強警備会社

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その思いは創業者の飯田亮氏(現・最高顧問)が社員に向かって常々口にしている次の言葉に表れている。

「げた屋、みそ屋になっちゃだめだ。艶っぽい会社にならなくては」

この言葉はげた屋、みそ屋を見下しているわけではない。げた屋といえばげたを、みそ屋といえばみそを(製造)販売している、といった具合に、表から見て何で稼いでいるかがすぐにわかるようなビジネスモデルでは、参入障壁が低く競争力にも欠けると言いたいのである。

「何でもやるのではなく何でもできる。だから、セコムという訳のわからない社名にした」という飯田氏の発言からもわかるように、多角化することにより、それぞれの事業が相乗効果を生み収益性を高めようとしているのだ。

「社会システム産業」と名乗る理由

競争力には表の競争力と裏の競争力がある。「警備会社でしょう?」という答えが出るのは、表の競争力だけを見ているからだ。では、セコムは単なる警備会社ではなく、何の会社なのか。正解は、「IT(ICT=情報通信技術)を携えたサービス業」といえる。同社が「社会システム産業」と名乗っているゆえんである。

セコムを長い間ウオッチし続けてきた筆者が近年、肌で感じるのが企業文化の変化だ。強権発動型ではなく、社員のモチベーションを高めるタイプの経営者がトップに就いている。日本銀行からセコムに転じ、2016年5月から社長を務める中山泰男氏だ。

そもそも、セコムは創業期から成長期に至るまで、労働集約型産業だった。同社が警備の機械化を進めたのは、急成長に伴い増大するガードマン(現在は「ビートエンジニア」=契約先で異常が起きた際に駆けつけるセコムの緊急対処員)の人件費を抑えることが大きな目的だったからだ。

飯田氏は、インターネットがなかった時代に専用回線を使い警備をネットワーク化した。その意味では、「当社は『元祖・IoT企業』と言っても過言ではありません」と中山社長は言う。

セコムはサービス業では珍しく、メーカーも顔負けの研究所や開発センターを有し、AI(人工知能)をはじめとする最新技術を積極的に活用している。

磨きをかけているのは、AIを活用した画像認識。不審な行動を取る人物を事前登録しておき、同じような事象が起きた場合、監視カメラがとらえ、付近にいるビートエンジニアに通知。そして、現場に急行するといった具合だ。

ただ、この裏に深刻な人手不足に対する懸念が隠されていないだろうか。

セコムの今期(2019年3月期)は、売上高が前期比3%増の1兆円、純利益は5%減の830億円、営業利益が7%減の1265億円となる見通し。7年ぶりの減益である。その主因は研究開発を含めた先行投資だ。人材投資として60億円、システム投資も40億円増やす。

セコムは急成長期に契約件数が増えていくのに伴い人件費も上昇していくというジレンマに陥った。このことが機械化を促すきっかけとなった。ところが今は、逆に深刻な人手不足を、AIや画像認識などの技術で補強しようとしているように見える。

この点を問うと、中山社長は次のように答えた。

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