セコムが人材確保に見せる並々ならぬ危機感 実は「元祖IoT企業」の顔を持つ最強警備会社

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「単に人手不足を補う手段として、新しい技術を使っているわけではありません。何が真の競争力になるでしょうか。それは人財(人材)です。人を活かすために技術をとことん活用しようという考えです。人は無形資産です。バランスシートに表れる有形資産の価値を大きく評価する時代から、無形資産重視の時代へと移りつつあります。その意味では、当社の強みであるホスピタリティなどは、簡単にマネができない高い参入障壁と言えるでしょう」

ホスピタリティこそがセコムの深層の競争力。技術はそれを支えているツールとも考えられる。

中山社長は続ける。

「最新鋭の技術により、省力化するところは省力化しますが、お客様が増えているのですから、人がやるべき仕事は減るどころか増えてくると思っています。2019年度にかけて、自己実現をサポートする、競争力ある人材を確保するなど、人に60億円、基幹システムの刷新、業務品質向上・効率化など技術に40億円、計100億円を投資します。このように投資額から見ても明らかなように、技術だけでなく人を味方につけようとしているのです」

会社が社員を選んでいるつもりでいた

新卒入社者のうち、3年で30%が退職するといわれる時代。ビートエンジニアや介護人材といった現場人材なくしては成り立たないセコムにあって、中山社長の目に、売り手のリクルート市場はどう映っているのだろうか。

「しばらく前は、会社が社員を選んでいるつもりでいました。だから、退職する人が出ても、また採ればいいと考える。ところが、この1~2年でフェーズが大きく変わりました。社員が会社を選ぶ時代になっているのです。

そこで、選ばれ続けるためには、退職する人が出た場合でも、もう、この会社で働くのは嫌だ、ということにならないようにしたいものです。そのためには、自分たちもやりがいがある、満足できる、自己実現できる、一緒にいる仲間もいいという会社でなければなりません。そのような会社であれば、退職者も当然減っていきます」

国内発進拠点・約2800カ所、セキュリティセンサー設置数・約6000万個による、人と技術が融合したビジネスモデルを最大の武器とするセコムにとって、「人」の使い方が大きく問われることなる。

グーグルのセクハラ問題をはじめ、企業におけるハラスメント問題が注目されている昨今、強面社長からホスピタリティ型に社長を替えたセコムの行方は、将来、アントレプレナーシップ論のケーススタディになることだろう。

2020年の東京オリンピック(7月24日~8月9日、パラリンピックは8月25日~9月6日)は、前回と比べ物にならないほど大規模なイベントとなるため、セコムが同業界のリーダー役を務め、ライバル企業とともに、飛行船、気球、そして、ドローンを活用した広域警備、画像認識による異常検知などの最新技術で平和の祭典を警備しようとしている。ここでセコムは、「人と機械の結合によるイノベーション」を披露してくれることだろう。

ところで、小池都知事の任期は2020年7月30日まで。五輪前に実施されよう都知事選挙で再選されるか、特例法で五輪後まで延長されなければ、五輪期間中に任期が切れてしまう。誰が都知事になろうと、東京オリンピックの安全を守る事実上の主役は、「官よりも民」になりそうだ。

そこで披露される「未来のセキュリティ技術」が話題を呼び、「安全・安心」は一大成長市場になるだろう。そのとき、セコムは「セキュリティ業界のトヨタ」として存在感をさらに高めているだろうか。「技術のセコム」「ホスピタリティのセコム」だけでなく、「人のセコム」になれるかどうかがポイントだ。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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