iPhone「台数は非開示」が示す時代の大転換 アップルが決算時の公表項目を変更するワケ

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今回、販売台数を公表しなくなったことはiPhoneの高付加価値化、価格の大幅な上昇は、その足場固めだった、と見てよいだろう。おそらく今後もこの傾向が続くのではないだろうか。販売台数が減ってでも高付加価値へシフトする、というのがアップルの本音だろう。

iPhone XRは廉価版と言われながら749ドルと、iPhone 8とiPhone 8 Plusの間の価格にあり、ちょうど1台あたりの販売価格のターゲットとなる価格帯に属する。4.7インチの通常モデルと5.5インチのPlusモデルを揃えていた時代からすれば、平均販売価格は上振れする戦略を用意してきた。

しかしそれでも、売上高全体の6〜7割を占めるiPhoneビジネスは、引き続き売上高での評価が続けられることになり、売上高の停滞はアップルのビジネスの不調を反映することになる。

サービス部門へシフト

そこで、急いでいるのが、サービス部門へのビジネスの軸足の転換だ。アップルは2016年のサービス部門の売上高を2020年までに倍増させる目標を掲げている。2016年当時は年間243億4800万ドルだったことから、これを2020年に486億9600万ドルにするという目標だ。

すなわち、四半期あたり122億ドル程度を売り上げることが目標となっており、この規模は2018年のFortune 500企業では60位近辺、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーと入った証券会社や、シスコシステムズよりも大きな規模だ。

2018年通年でのサービス部門の売上高は341億9800万ドルであることから、順調にその道のりを歩んでいることが分かる。ちなみにこの規模は、Fortune 500企業の90位前後であり、コカ・コーラやアメリカン・エクスプレスのすぐ背後に位置し、ナイキより大きい。

アップルは昨今、サービス部門成長の根拠となる数字をいくつか披露している。まずiPhone・iPadを含むiOSデバイスを20億台出荷したこと明らかにしている。またApple MusicやiCloudを含むサブスクリプションモデルを利用するユーザーは3億3000万人に達した。

この数字を増やし、またアップルのサブスクリプションサービスを通じて利用する金額を増やすことによって、デバイス販売からサービス企業へと、ゆっくりと、しかし着実に移行しようとしているのだ。

現在Apple Payなどのサービスも提供しているが、テレビなどのエンターテインメント、医療や健康などのサービスを取り込んでいく必要があるだろう。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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