実は働く妊婦に冷たいアメリカ企業のリアル 企業の配慮を促す法律もない

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妊娠中の業務軽減を訴えたが断られ、流産した女性(写真:Miranda Barnes/The New York Times)

もしあなたがアメリカの東海岸に住んでいて電話会社のベライゾンと契約しているなら、あなたの携帯やタブレットは、テネシー州にある窓のない物流倉庫を経由して届いた可能性が高い。

その倉庫の中では、何百人もの従業員が、iPhoneなどが詰められた重さ20キロにもなる箱を持ち上げたり引きずったりしている。従業員の多くが女性だ。この倉庫はベライゾンと契約している業者が所有しているもので、倉庫の中には空調設備もなく、室温は38度を超えることもある。この倉庫の現役従業員や元従業員20人にインタビューしたところ、仕事中に意識を失う人も珍しくないという。

妊娠中も重い箱を運び続ける

2014年1月のある晩、エリカ・ヘイズは8時間にわたって箱を持ち上げるなどの作業を行ったあと、トイレに駆け込んだ。ジーンズからは血がしたたっていた。

その時ヘイズは23歳で、初めての妊娠の第2期(4~6カ月)に入っていた。その週の彼女の仕事は、倉庫の中でも最も大きな箱を、1つのコンベアベルトから隣のコンベアベルトに移す作業だった。妊娠がわかってから、もっと軽い箱を扱う仕事に変えてほしいと上司に頼んできたのだが、いつも答えは「ノー」だったという。

トイレから出る時に、彼女は意識を失った。女の子であることを願っていたお腹の中の子どもは、命を失った。「これまでの人生で最悪の出来事だった」とヘイズは言う。

2014年には、ヘイズのほかに3人の女性が流産した。当時その倉庫はニュー・ブリード・ロジスティクスが所有していたが、同年の後半にXPOロジスティクスが倉庫をニュー・ブリードとともに買収した。買収後も状況は変わらず、今年の夏にはまた別の女性が流産し、8月にも19歳の女性が流産した。

流産した女性たちは、全員がもっと軽い仕事に移してほしいと希望を出していた。そのうち3人は医師から、「もっと負担が少なく勤務時間の短い仕事を推奨する」と書かれた手紙も持参した。しかし、その手紙も無視された。

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