トランプが「日本叩き」を加速させ始めた真因 安倍首相との蜜月を演出していたはずだが…

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トランプ大統領からすると、日米の経済対話の責任者は、日本側では麻生副首相兼財務相、アメリカ側ではマイク・ペンス副大統領の2人に確定している。茂木経済再生相の発言は「麻生副首相にはペンス副大統領」という日米経済対話の枠組みを軽んじるもの、と受け止められても致し方あるまい。「ペンス副大統領の立つ瀬がないではないか」とトランプ大統領が激怒したとしても不思議ではない。

日本側はそれ以前にも、ペンス副大統領に対して、日米貿易交渉の文脈で失礼とも言える伏線があった。たとえば10月11日付朝日新聞デジタルは、ペンス副大統領が日本との自由貿易協定に関して語ったスピーチの原稿を修正して発表した、と報道していることだ。

修正とはどういうことか。日本が交渉しているのは「日米物品貿易協定(TAG)」であり、「日米自由貿易協定(FTA)」ではないという立場に立っている。特に、茂木経済再生相が「ペンス副大統領はFTAとは言っていない」と述べたことに、ホワイトハウス側が気を使ってペンス発言の修正になったと、日本メディアは報道したのだ。

ペンス副大統領のスピーチが、日本の交渉担当者に気を使って修正された、という日本的な論理はアメリカには通じない。それどころか、アメリカの論理としては、プライドを傷付けられるのはペンス副大統領だけでなく、それ以上に、ペンス氏の盟友・同志でもあるトランプ大統領その人になるということだ。

ペンス副大統領に対する礼節を欠いた日本側の対応に対して、カチンときたトランプ大統領は、同時に、最近の安倍首相の対中国接近と合わせて、安倍政権に対する我慢の限界に達しているのではないか。その証拠に、あたかも為替条項だけでは足りないと言わんばかりに、日本車への関税20%をぶち上げたのではないかと推察される。

INF離脱表明でわかった米ロ対立

いずれにせよ、トランプ大統領がこのタイミングでいったん言い出した以上、この関税20%は来年にかけて、日米交渉の大きな論点として浮上してきたことは間違いない。それにクギを刺したのが、今回のインディアナ州演説だったのではないか。インディアナ州と言えば、ペンス副大統領の前職がインディアナ州知事であり、同氏の選挙地盤であることと決して無関係ではない。

さらに、トランプ大統領のイラ立ちを高じさせたことで見逃せないのは、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)による、ロシア訪問に際しての不用意な発言だ。それは対日「20%関税」演説の直前に発せられた。ボルトン氏のロシア訪問は、アメリカの中距離核戦力(INF)廃棄条約からの離脱に関する通告だった。

このニュースを最初に、しかも事前に報じたのは、ニューヨークタイムズだ。同紙はINF条約からの撤退を正確に予測していた。同紙の記事は、ロシアがINF条約に違反しているという認識を、アメリカはオバマ政権の2014年以来持っており、INF条約からの離脱こそ、従来の経緯を踏まえた正しい判断だと確信しているトランプ政権の立ち位置を明解に整理し、客観的に記述している。

ヨーロッパの安全保障を担う北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長も、ロシアにINF条約違反があるというアメリカの考え方を共有している。INF条約からのアメリカ離脱に、事実上同意している、と報道されている。

他方、ここで想起されるのは今年7月11日、ブリュッセルでNATO首脳会議に出席したトランプ大統領が国際記者団の前で、ストルテンベルグ事務総長を厳しく叱責したことだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がロシアのパイプラインに頼る決断をしたことについて、ドイツの問題であるにもかかわらずNATOの問題としてとらえたからである。

実は、このことが今回のアメリカのINF条約をめぐる米ロ軍事対立の複雑な背景を構成している、と考えられる。

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