30代でも起こる「孤独死」壮絶すぎるその現場 現役世代は福祉の網にかかりにくい

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

男性は地元の九州の高校を卒業後、上京して都内の大学に進学した。卒業した後は、都内の社労士事務所に事務職として勤めていたらしい。ある日体調が悪くなり、病院に行くと若年性がんだと診断された。その後は休職し、このアパートで闘病生活を送っていたそうだ。実家の両親に心配をかけるのは申し訳ないと感じていたのだろう。男性は病気のことは伝えずに、たった独りでがんと闘うことを選んだようだ。九州に住む母はそんな息子の窮状をまったく知らないまま、毎月野菜と手紙を送り続けていた。

男性の住んでいたアパートの1Kの部屋は、小ぎれいに整頓されており、青色のスノーボードのブーツや少年マンガ誌、最新のゲーム機などが所狭しと並んでいた。アクティブな性格で、花の独身生活を謳歌していたようだ。しかしがんの悪化とともに身動きが取れなくなったのだろう。前述の孤独死現状レポートによると、孤独死の死亡原因は6割が病死だ。この男性のように異臭によって発見されることも多い。

電機メーカー退職後「セルフネグレクト」に

八王子市の50代男性は、キッチンの床に突っ伏した状態で最期を遂げていた。死因は脳血管疾患だった。何らかの身体の異変を感じて、外部に助けを求めようとしたのだろう。キッチンの食器は割れて散らばり、玄関の土間を向いて亡くなっていた。

この男性のように玄関に頭を向けた状態で亡くなる例は少なくない。特殊清掃の業者によると、苦しみのあまり外に飛び出そうとして、玄関までの動線のどこかで亡くなっているケースが圧倒的に多いそうだ。

隣人の学生から「異臭がする」と管理会社に連絡があり、孤独死が発覚した。部屋の中はゴミで埋め尽くされており、警察が部屋に踏み込むと、男性はとうの昔に息絶えていて、何十匹ものハエが頭上を飛び交っていた。

孤独死は高齢者だけの問題ではない(写真:bee32/iStock)

男性はバツイチの独身で大手電機メーカーの管理職だったが、糖尿病の治療を理由に定年の5年前に早期退職した。その後は近所付き合いもなく、家に引きこもりぎみだった。退職金と貯金で暮らしていたが、冷蔵庫の中には何も入っていない。押し入れにはカップラーメンとサプリメントが山積みになっており、偏った食生活を送っていたのは明らかだ。

孤独死の7割以上を占めるのが、こういったセルフネグレクト(自己放任)だ。生活や健康状態が悪化しているにもかかわらず、改善する意欲や周囲を頼る気力がなくなってしまう状態のことを指す。部屋をゴミ屋敷にしたり、必要な食事を取らなかったり、体調不良でも医療を拒んだりして、自身の健康状態を悪化させる。

「緩やかな自殺」との別称もあり、近年は大きな社会問題となっている。セルフネグレクトは誰にでも起こりうる。ビジネスパーソンも仕事に追われ、忙しさのあまりに、気づけば家がゴミ屋敷化したり、食生活がなおざりになっていたりするケースが多い。

死はいつ訪れるか誰にもわからない。高齢化や核家族化が進む中で、高齢者の孤独死問題に注目が集まりがち。だが、働き盛りのビジネスパーソンであっても、孤独死は決して無関係ではないのだ。

『週刊東洋経済』11月3日号(10月29日発売)の特集は「ビジネスパーソンを襲う 『孤独』という病」です。
菅野 久美子 ノンフィクション作家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)『母を捨てる』(プレジデント社)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事