日本の旅館は、なぜ台湾でウケるのか? 成功する「日本式」の輸出、石川・加賀屋の台湾進出

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先日NHKのクローズアップ現代で、「日本式」の海外への輸出が活発化していることを取り上げていた。日本の温泉ランドや移動式診療所、健康に優しい学校給食など、日本で生まれたビジネスやサービスがアジアに広がっているという。

共通するのは、隅々まで配慮が行き届いた日本的な「おもてなし」のよさが、アジアで受け入れられ始めているということだ。経済成長が続いていて、物欲が満たされた後の「何か」を求めるアジアの人々の琴線に触れることができているのだろう。

加賀屋から学べる教訓

かつて、日本のホテル勢はアジアなど世界に激しく進出していった。そのサービスには確かに「日本」を感じさせるものがあり、日本人は好んで日系のホテルを使った。しかし、ホテルという欧米で生まれたマニュアル化されたサービスの世界には、適応しにくい部分もあった。実際に、日系のホテルはほとんど満足のいく結果を残せておらず、多くは世界的なサービスのスタンダードを売り物にするヒルトンやマリオット、インターコンチネンタルなど欧米系のホテルチェーンに飲み込また結果に終わっている。

その失敗から教訓を得るとすれば、欧米のホテルチェーンと同じ土俵で勝負した結果、「おもてなし」に含まれる「行き届いたサービス」「心配り」といったマニュアル化が難しい部分に多い日本の強みを、十分に打ち出せなかったことだろう。

加賀屋の例からわかることは、海外に向けて「輸出」するのであれば、ハードもソフトもまとめて出さなければ、そのよさは伝わらない、という原則ではないだろうか。

日本を訪れた多くの外国人が、日本の温泉旅館で体験する「日本」に感動して帰国の途についている。その記憶を呼び覚まし、「日本の温泉旅館」そのものを輸出しようという加賀屋の野心的な挑戦は、台湾という日本に最も親しみと理解を持っている格好の舞台で、実を結びつつある。

今、中国を旅行すると、あちこちで「温泉」を使っていることをアピールするホテルが新設されている。しかし、どこに泊っても、不十分なハードやソフトにあきれることが多く、温泉という吸引力を十分に生かし切れていない。筆者は、第2弾、第3弾の加賀屋が登場し、「日本式温泉旅館」が台湾のみならず、中国などアジアのホテルビジネスの一角に食い込む日を夢見ている。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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