ポスト安倍に「飛べない男」岸田文雄はあるか 「いい人」は「どうでもいい人」になりがち
岸田氏にとって当面最大の課題は、今回総裁選への出馬をめぐる迷走が招いた「戦わない男」という負のイメージの払拭だ。7月24日の「撤退会見」で記者団の「次は出るのか」との問いに「まだ早い」と口を濁したことが、国民の間での「優柔不断な政治家」とのマイナス評価につながった。
この会見で岸田氏は前日の23日に首相と「秘密会談」をして不出馬を伝えたと説明したが、菅義偉官房長官ら首相サイドはいまだにこの会談自体を否定している。その後、首相サイドから「岸田氏はそれまでの差しの会談で、首相に対し『私はどうしたらいいのか』と問いかけ、首相を呆れさせた」との情報が流されたことも岸田氏のイメージダウンにつながった。このため永田町でも「そもそも、岸田氏が頼みの綱とする首相からの禅譲などあり得ない」(竹下派幹部)との声も広がる。
しかし、岸田氏は撤退宣言後の8月上旬、広島での首相との密談で、「次の総裁選ではあなた(岸田氏)を推す」との言質を得たとされる。岸田氏はその直後に「次の総裁選に出馬したい」と決意表明したことも合わせると、同氏の総裁選戦略が依然として首相頼みであることは否定しようがない。
たしかに、党内第2派閥を率いる麻生氏は「石破嫌いで有名」(自民幹部)なだけに、首相の意を尊重する細田派と麻生派が岸田氏支持に回れば「支持する議員数は党内過半数となり、石破氏を圧倒できる」(岸田派若手)ことにもなる。さらに、今回総裁選では首相支持と石破氏支持で割れた竹下派も、領袖の竹下亘前総務会長がかねてから「政策理念は岸田派と極めて近い」と岸田氏支持を匂わしている。となれば、「派閥の多数派工作では岸田氏が圧倒的有利」(自民長老)との見方も出てくる。
河野氏出馬なら「議員票での優位」も崩壊
ただ、これは次の総裁選が「石破vs岸田」の一騎打ちの構図になった場合だ。野田氏は「次こそ出馬にこぎ着ける」と推薦人確保に必死だし、河野氏も出馬に意欲満々だ。23日の河野氏の政治資金パーティで麻生太郎副総理兼財務相が、「(河野氏が)政治家として今後伸びるのに何が欠けているかと言えば、間違いなく一般的な常識だ」と軽口を叩いて失笑を買ったが、麻生氏にとって河野氏は「自派閥の総裁候補」であることは間違いない。しかも、無派閥議員の半数近くを束ねているとされる菅義偉官房長官も「河野氏支持」を明言している。このため次回総裁選に河野氏が出馬すれば岸田氏の優位は一気に崩壊する。
さらに竹下派が同派所属ながら首相の最側近とされる加藤氏を擁立すれば、岸田氏は「孤立無援」となる可能性すらある。もちろん、加藤氏については「竹下派では茂木敏充経済再生相が将来の総裁選出馬に意欲満々で、当面、加藤氏の出番はない」(自民幹部)とされるが、「3年先のことなど誰も分からないのが政界の常」(自民長老)だ。
岸田氏の最大の売り物は「人柄のよさ」(周辺)とされる。たしかに「岸田氏が嫌いという自民党議員はほとんどいない」(自民幹部)のは事実だ。ただ、「政界では『いい人』は"ほめ言葉"ではなく、『どうでもいい人』の意味」(閣僚経験者)でもある。「論争すれば相手を完膚なきまでにやっつけるから党内でも嫌われる」(同)とされる石破氏とは対照的だ。
首相は24日午後の所信表明演説で「平成のその先の新しい日本をつくるため、次の3年間も先頭に立つ」と決意表明したが、来年の参院選も含め首相の政権運営には多くの高いハードルが並ぶだけに、「これからは首相の引き際が焦点になる」(自民長老)のは間違いない。つまり「ポスト安倍は突然やってくる」(竹下派幹部)可能性も否定できないわけだ。
「その時はその時のこと」と苦笑する岸田氏だが、「1強を誇示して強引な政権運営続けてきた安倍政権の終焉は、党内の"安部疲れ"が頂点に達した時」(自民長老)との見方もある。このため岸田氏側近は「その時こそ、ハト派で自己主張も控え目で温和な岸田氏の出番」と期待を込めて語るが、「権力闘争はそんなに甘くない」(首相経験者)のが政界の掟でもある。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら