マツダ新体制に問われるフォードとの”距離感”

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マツダ新体制に問われるフォードとの”距離感”

11月18日、米フォード・モーターは、保有するマツダ株33・4%のうち約20%を売却すると発表した。英ジャガーやボルボの売却に続き、フォードは今回のマツダ株売却で約520億円を手に入れるが、売却後の持ち分は約14%で引き続きマツダの筆頭株主にとどまる。

前日には、米ゼネラル・モーターズ(GM)がやはり業務提携関係にあるスズキの全株(3%)を223億円で売却すると発表。スズキは全量を自社取得した。一方、マツダの財務体質は相対的に弱く、全株取得は難しかったとみられる。マツダは6・8%(取得価額178億円)のみ自社株買いを行い、残りは広島銀行、中国電力など30社超が広く、薄く持ち合う。「(フォードからの株売却打診があったのは)だいぶ前です。思い出すのも大変だった」と井巻久一会長は述懐した。

密月ぶりを強調

「どこからがフォードで、どこからがマツダかわからないくらい入り組んだ関係」と井巻会長はかねてから発言していた。両社の関係は1979年の資本提携から始まり、96年の戦略的提携(出資比率を33・4%に引き上げ、フォード出身のウォレス氏が社長就任)を経て足かけ30年にわたり、「最も成功している提携関係の一つ」(同)。

今回、資本提携が縮小されても2社の関係に大きな修正はない。米国、中国、タイの合弁工場も維持し、車台などの共有、IT、購買などの提携関係も継続。「フォード以外との提携は現時点で考えていない」(同)。自己取得株も当面金庫株とし、今後仮に、フォードからの株買い戻し提案があれば話し合いに応じる姿勢も見せた。

フォードグループの中でマツダは、1.3~2.5リットルクラスの中小型スポーティセダンの開発で存在感を強めてきた。小型・高燃費車へのシフトが進む中、フォードとしては今後もマツダと手を組んでいたい。マツダとしても、財務を立て直したウォレス氏(~97年)、ブランド戦略の基礎を作ったミラー氏(~99年)、「ズーム・ズーム」のブランドを打ち出し、リストラを断行したフィールズ氏(~2002年)など、フォード出身社長には恩もある。

ただ、フォードがさらなる経営危機に陥るとなれば、これまでの「関係維持」は変化せざるをえない局面も想定される。

フォードは第3四半期(7~9月)で1億2900万ドルの最終赤字を出した。マツダ株売却は手元資金確保のための窮余の一策。今後、業績回復の兆しがなければ、マツダ株をさらに売却するとも限らない。そのとき、生き残りを懸けた独自の体制強化が急務となる。

だが、フォード保有株売却と同時に発表された新経営陣の布陣からは、強い変化のメッセージが伝わってこない。従来3人いたフォード出身者は、フィリップ・G・スペンダー副社長を残して退任するが、次期社長には副社長の山内孝氏が昇格。新たな代表取締役に山木勝治副社長、尾崎清専務といずれもマツダたたき上げの人物を据えた。併せて、03年に16年ぶりの生え抜き、かつ7年ぶりの日本人社長として就任し、会長も兼任してきた井巻氏は、会長職に専任する。

山内新社長は45年生まれ。井巻氏よりわずか3歳の“若返り”にすぎない。山木、尾崎両氏も60代だ。「今回の人事は2年かけて考えてきた。フォードの株で、来年4月の予定を半年早めて実施することにした」(井巻会長)という割には、“新マツダ”始動に際してフレッシュな印象にいささか欠ける。抜擢人事も見当たらない。

井巻会長は会見で「(会長に専念することが)身を引くことだと思わないでほしい。私にはそんなのは似合わない。静かにしているようなタイプではない」とくぎを刺し、山内新社長も「マネジメントチームとして対応していく」と歩調を合わせた。

現政権の“マイナーチェンジ”を選択したことが、この未曾有の経営環境を乗り切るのに吉と出るのか否か。

(写真:梅谷秀司)

高橋 由里 東洋経済 記者

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たかはし ゆり / Yuri Takahashi

早稲田大学政治経済学部卒業後、東洋経済新報社に入社。自動車、航空、医薬品業界などを担当しながら、主に『週刊東洋経済』編集部でさまざまなテーマの特集を作ってきた。2014年~2016年まで『週刊東洋経済』編集長。現在は出版局で書籍の編集を行っている。

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