アマゾンのスマホ決済が「日本最重視」の理由 米中テクノロジーの巨人が抱く正反対の思惑

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日本でスマホ決済サービスの拡大を図る海外勢はほかにもある。その一つがAlipay(アリペイ)だ。中国のネット通販最大手・アリババグループの金融子会社・アントフィナンシャルが手掛けており、中国国内で50万超、海外で5万店超が加盟している。各国の現地パートナーと連携するサービスも含めると、全世界のユーザーは8.7億人に上る。

ソフトバンクグループが展開するスマホ決済「PayPay(ペイペイ)」は、中国のAlipay(アリペイ)と提携している(写真:ヤフー)

日本での展開としては直近、ソフトバンクグループのペイペイとの提携を発表。小売店がペイペイの置き型QR決済(買い物客がスマホでレジに設置されたQRコードを読む)を導入すれば、同一のQRコードでアリペイの決済にもすぐに対応できるというのが売りだ。これにより、ペイペイは中国人をはじめとする訪日客対策という付加価値を小売店に訴求でき、一方でアリペイはペイペイ側の営業活動に相乗りして加盟店を増やすことができるわけだ。

決済を起点にしたサービス競争始まる

だが、日本市場開拓におけるアントの戦略がアマゾンと明確に異なるのは、あくまで「日本に渡航する中国人観光客向けサービス」と割り切っている点だ。アントの国際広報・楊昕韵(ヤンシンユン)氏は東洋経済の以前の取材に対し、「(日本市場は)インバウンド中心であり、ローカルウォレット(現地住民向けのサービス)を展開する考えはない」と明言している。

アントがローカルの利用者向けサービスを展開するための条件は主に2つある。1つは金融サービスが未発達で、これに対する需要が強いこと。そしてもう1つが、有力な現地パートナーと提携できることだ。アントは中国以外に9カ国でローカルウォレットを展開しているが、インド、タイ、フィリピン、マレーシア、バングラデシュなど、確かに新興国が中心。一方で、中国人観光客向けの海外アリペイサービスも約40カ国に拡大しており、日本はこの中の一つという位置づけだ。

アントは決済を起点に、保険や資産管理のサービス展開も進めている。アマゾンも「アマゾンペイ単体でどうこうというより、ユーザーとの接点を増やし、アマゾンというブランド全体の利便性や信頼性のアップに貢献することを重視している」(井野川氏)。日本市場でスマホ決済を育成する各社にとっても、決済を入口として自社サービスをどれだけ発展させられるかが重要になりそうだ。

実店舗の決済データは、金融、広告、マーケティングなど、ネット企業のあらゆる事業に生かせる可能性を秘める。一方で個人の機密情報になるため、運営ノウハウが問われるビジネスである。米中のテックの巨人、そして日本のネット大手勢による戦いは始まったばかりだ。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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