アマゾンのスマホ決済が「日本最重視」の理由 米中テクノロジーの巨人が抱く正反対の思惑

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実店舗向けアマゾンペイの最大の強みは、専用アプリのダウンロードや個人情報の登録といった、ユーザー側での面倒な作業なしにすぐ決済できる点だ。アマゾンのショッピングアプリを開き、メニューバーから「プログラムと特典(機能)」というページに進めば、すぐにアマゾンペイのQRコード画面を起動できる。アマゾンに登録済みの支払い手段がそのまま適用されるため、改めてクレジットカードや銀行口座を紐づける必要はない。

米調査会社ニールセンによれば、モバイル端末におけるアマゾンの日本におけるユニーク訪問者数(2018年3月度)は3856万人に上る。これにはブラウザでの利用者も含まれ、すべてがショッピングアプリの利用者ではないが、実店舗でのアマゾンペイ利用に親和性の高いユーザー群といえそうだ。

アマゾンペイで決済できる店舗は、シールやのぼりで示されている(写真:アマゾンジャパン)

冒頭の通り、スマホ決済はライバルがひしめく市場だ。各事業者とも利用者を囲い込むべく、ポイントや割引による「お得」の訴求を強めている。アマゾンでもアマゾンペイの初回利用に対し300円分のアマゾンポイントを付与するキャンペーンなど、利用者獲得に向けた施策を実施。同社最大の武器である独自の会員サービス「プライム」と絡めた施策も「可能性として検討中」(井野川氏)という。

スマホ決済のカギは加盟店開拓

もうひとつ普及のカギとなるのが、加盟店の獲得だ。特に地方や中小の小売店を開拓するには、膨大な手間と営業人員が必要になる。アマゾンは今回加盟店数を増やす施策として、タブレット端末を使った小売店向け決済サービスを展開するニッポンペイと組んだ。同社子会社のニッポンタブレットでは、クレカ・スマホ決済のほか、通訳、防犯カメラ管理、免税書類作成などを一つのタブレット端末上で行えるサービスを展開している。ここに8月末からアマゾンペイが加わった形だ。

タブレットのレンタル(無料)とアマゾンペイの利用を申し込んだ店舗に対しては、2020年12月末まで決済手数料をゼロにするキャンペーンを期間限定で実施する。POSレジを設置しているような大規模な小売りチェーンはあえて追わず、「キャッシュレスの流れから置いてけぼりになっている全国約120万店の中小商店を射程に営業していく」(ニッポンペイの高木純社長)。

むろん、アマゾンが加盟店開拓のターゲットとする層はさらに広い。中小商店開拓でニッポンペイと組む一方で、「ほかのPOS事業者などとのパートナーシップを排除するわけではない」(井野川氏)。また、オンライン向けアマゾンペイですでに付き合いのある事業者から「自分たちが展開する実店舗でもアマゾンペイを使いたい」という要望も寄せられているという。多角的な開拓が進みそうだ。

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