ポルシェ「ディーゼル撤退」が示すVWの思惑 EVシフト見せつつ、実は万一に備えている

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ただし、地球温暖化の主原因とされるCO2だけ抜き出すとちょっと話が変わってくる。ディーゼルはピストンが上死点にあるときと下死点にあるときの容積比、つまり機械圧縮比が高い。内燃機関はこの予圧縮が高いほど熱効率がよくなる。その結果、燃料の持つ熱量を動力に変換する効率が高くできる。熱効率のよさはひいてはCO2排出量の削減に生きてくる。

このように、功罪相半ばするのがディーゼルエンジンの難しいところなのだが、たとえばマツダはディーゼルの常識を破る低圧縮ユニットを開発し、燃焼温度を下げてNOxの削減に成功している。熱効率の一部と排ガスをバーターにした、つまり温暖化対策のリソースの一部を大気汚染防止に振り向けた形だが、マツダはこうした技術によって当分ディーゼルは有用であると主張しているのだ。

VWにとってポルシェのブランドイメージは好都合

さてこういうさまざまな問題を抱えた中で、フォルクスワーゲングループは2つの矛盾する主張をまだ取り下げるつもりがない。その一方が今回のポルシェのディーゼル撤退だと言えるだろう。もともとグループ内では、ポルシェブランドモデルはディーゼル比率が低く、切り捨てても痛みは少ない。だからディーゼルを止めて環境優等生イメージを広めるにはポルシェのブランドイメージは好都合なのだ。

問題はそうやってポルシェをイメージリーダーにしてグループ全体に脱ディーゼルイメージを作ってしまった後に、何をその受け皿にするつもりなのかだ。はたしてその受け皿をEVが務めることができるのだろうか?

現在ドイツメーカーは対中国輸出を重んじているので、EV比率を上げて行きたい。中国にはEVの販売比率を義務づける新エネルギー車規制(NEV規制)があり、さらにEVだけにナンバーの発行を優先する政策も継続されている。このような極端なインセンティブによって、中国では世界のマーケットと乖離したEV比率になっているのだ。

一方、既報のとおり、アメリカではトランプ政権がゼロエミッションビークル規制(ZEV規制)を取り下げようとしている。北米のZEV規制はゼネラルモーターズ(GM)をはじめとするビッグ3にとって高すぎるハードルであり、あまりにも現実離れしている。古の排ガス規制、「マスキー法同様にロビー活動で潰されるだろう」と筆者は数年前から発信してきた。それが今現実のものとなろうとしている。

というわけで、アメリカがZEVを取り下げた後、中国マーケットのEV優遇の特殊性は一段と際立つことになる。このタイミングで生産計画を中国基準に合わせるのはどう見ても賢明とは言えない。世の中では内燃機関をガラケーに、EVをスマホに例えるケースが多いが、スマホがガラケーを駆逐していった時、スマホに補助金が付いたりしただろうか? そんなことをしなくても飛ぶように売れて、市場を席巻した。

つまりスマホは誰もが欲しがる商品だった。しかしながら冷静に見てEVはそうではない。どこの国でも例外なく補助金を付けて優遇しているにもかかわらず、内燃機関を数量的に追い詰める気配はまだみじんもない。唯一、共産党の強権発動によって極端な優遇政策を実行している中国だけが例外になっている。

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