ポルシェ「ディーゼル撤退」が示すVWの思惑 EVシフト見せつつ、実は万一に備えている

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つまりEVは商品として売れていない。イメージだけが先行しており、実際に魅力を感じて財布を開こうという人が極端に少ない。

という市場の流れから見ると、2025年のポルシェの電動化率50%は現実的にはハイブリッドが主流となり、EVは限られたモデルということになるはずである。だったら素直に「電動化」だけを主張すればいいのに、フォルクスワーゲングループはなぜディーゼルにいつまでもこだわりをみせるのだろうか?

動力用バッテリーの争奪戦

トヨタのある幹部に聞いた話では、現在、動力用バッテリーは世界中で激しい争奪戦が繰り広げられており、バッテリーの確保は非常に厳しい状況にあるという。トヨタ自身、2030年に「電動化」モデル550万台を目標とし、このうち100万台をEVまたは燃料電池車(FCV)に切り替える計画だが、2017年の152万台でも調達にはギリギリの攻防が繰り広げられている。

現在のトヨタの152万台はほとんどがハイブリッドだ。これを純粋なEVにするためにはハイブリッドの10倍以上のバッテリー容量が必要となる。そんな生産余力はどこのバッテリーメーカーにもない。だからトヨタはパナソニックと提携し、2030年までのバッテリー供給量をあらかじめ約束させたのである。

状況はフォルクスワーゲンとて同じである。すでにフォルクスワーゲンは年産50万台分の大規模バッテリー工場の設置に向けて動いているが、肝心のセルは外部調達とされている。そこは中国の搦め手で、「中国で売りたければバッテリーのセルは中国製を使うこと」と条件を付けられている。

同じ条件を突きつけられたGMが、強要された中国製のバッテリーが自社の性能・安全基準を満たさず、生産予定の無期延期に追い込まれていることからみても、中国からのバッテリーの調達はかなり難問が多いことが予想される。はたしてフォルクスワーゲンは、GMの轍を踏むことなく無事にバッテリーを調達できるのであろうか?

バッテリーが調達できなければEVはおろか、ハイブリッドの生産すらおぼつかない。それでも生産を続けなくては生き残れない自動車メーカーとしては最後の切り札として温暖化対策に有効なディーゼルを手札として残しておきたい。

生産台数が少なく、高額であっても構わないポルシェブランドで、ひとまずEV化のルートを示す一方で、量産モデルであるそのほかのグループ傘下ブランドでは、ディーゼルを温存して万一に備える。そんな動きがこの発表の裏側にはうごめいているのだ。

池田 直渡 グラニテ代表

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いけだ なおと / Naoto Ikeda

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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