若者の言葉遣いに心配無用 俳人・金子兜太氏③

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かねこ・とうた 俳人。1919年生まれ。東京帝大経済学部卒、日本銀行に入行。戦後すぐに労働組合の中心メンバーになり管理職にならずに定年退職。在職中から現代俳句に取り組む。朝日俳壇選者を20年以上務めている。日本芸術院会員。2008年文化功労者。

私が提唱し実践してきた俳句はそれまでの俳壇の主流とは明白な違いがあります。季語を入れなければならない、客観写生でなくてはならない、といった「ナラナイ論」ではなく、五七調だけは基本として守るが、自己の内面まで表出させるような句を詠むということです。こうした考えですから、一時は俳壇から排除されたこともありました。今では逆に、こうした現代俳句のあり方に多くの賛同者がいます。

 五七調は万葉集の例えを持ち出すまでもなく、日本人の体に実になじんでおり、詩の表現形態として守っていくべきものでしょう。弥生言語というか、その時代から体質にしみ込んでいる。マルチクリエーターのいとうせいこう君に聞いた話ですが、五七調の音律はラップのリズムに似ているそうですな。若い人に親しみやすいリズムであり、アメリカの音楽にも通じるというのは面白いことだと思いますね。

言葉のあり方なんてことも心配いらない

若者の言葉遣いを評して、よく「言葉が乱れている」なんて言われますが、私にはその考え方がわかりません。言葉というのは人々の暮らしとともに変化するので、その変化は素直に受け入れるしかありません。言葉の変化がなければ、昔からの言葉をずっと使い続けることになります。それじゃあ表現の多様性も生まれない。ただし、その言葉が俳句のような詩の言葉になるかどうかは別の事柄で、吟味が必要です。

「パソコン」という言葉が使われるようになったのは、この20年くらいでしょうか。初めは私はこの言葉が俳句の詩語になるのは難しいのではないかと言っていたのですが、今は結構、使われています。これはほかの言葉で言い換えもできないから根付いたんでしょう。「ケータイ」も詩語として使われている。「テレビ」なんて、もう普通です。

詩語として定着するのは、私は「感銘を呼ぶ」と言ってますが、俳句の五七五にうまくはまり、そのリズムで詠んでみて、人々に感銘を与えるかどうか。共感やインプレッションを与えるかどうかでしょう。もっと言えば感動を与えるかどうか。「実感に応える」とも私は表現していますが、言葉が喚起するイメージがある。そうなれば詩語です。

若い人の俳句を見る機会も多いのですが、口語調もあれば文語調もある。あるいは、ずいぶんと古風なものもあれば、現代的な心象を詠んだものもある。そういった変化も楽しみです。ですから俳句の将来は明るい。言葉のあり方なんてことも心配いらないと思っています。

週刊東洋経済編集部
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