「人魚の眠る家」は価値観を問う娯楽作品だ 東野圭吾のヒューマンミステリーを映画化

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自分の意志をしっかりと持ち、決して流されない。しかしその愛の深さゆえに、その行動には狂気的な面が宿っていく。そんな母親の愛情の深さを渾身の演技で体現した彼女。彼女の夫・播磨和昌を演じた俳優・西島秀俊は、「演技とは思えない。魂の底から生まれてくるような演技をされていて、毎シーン、一緒に演じていて圧倒されました」と称賛する。

母親の愛情の深さを渾身の演技で体現した篠原涼子(右)。彼女の夫・播磨和昌を演じた西島秀俊(左)もその演技を称賛する ©2018「人魚の眠る家」 製作委員会

妻の行動に苦悩しながらも、その思いを受け止めようとする夫・和昌を演じた西島だが、彼自身、プライベートではひとりの男の子の親になったばかり。妻役の篠原も「今回、シーンごとに涙を流しながら演技に臨まれていて。私もですが、西島さんも親になられたので、そんな気持ちで入り込めるのかな」と証言する。

せつなさと苦渋に満ちた物語が展開される本作であるが、撮影現場の合間では、夫婦役を務める篠原・西島たちが、2人の子役と一緒に遊び、緊張する彼らをリラックスさせていたという。そしてその様子を祖母役の女優・松坂慶子が優しく見守っていた。俳優同士のそんな関係性がしっかりと構築されていたからこそ、画面に映し出された家族の姿は、せつなく、そして胸を締め付けるものがある。

コメディもシリアスも手掛ける堤幸彦監督がメガホン

夫・和昌はIT機器メーカーを経営しており、その最先端技術が、脳死と診断された娘の治療に生かせるのではないかと思いつく。社長の和昌からその命を受けた研究員の星野(坂口健太郎)は、その成果に手応えを感じ、しだいにその研究にのめり込んでいくようになる。自分の研究が、目の前の親子を幸せにしているはずだ、という思いがあるからこそ、彼の思い・行動はますますエスカレートしていく。そして娘に向けた母・薫子の強い思いが、その思いをしっかりと後押ししていた。

最先端技術で脳死の子の治療やリハビリに挑む研究員役を坂口健太郎(左)が演じる  ©2018「人魚の眠る家」 製作委員会

誰が正しいわけでもなく、誰が間違っているわけでもない。単純な答えが見つからないからこそ、観客の倫理観や価値観を猛烈に揺さぶってくる。原作者の東野圭吾自身、「書き上げた今も、何らかの答えに到達できたという自信はありません。ただし、エンターテインメント作家としての役割だけは果たせたのではないかと自負しております」と本作に向き合った心境を語っている。

本作のメガホンを取ったのは、堤幸彦監督。『トリック』や『20世紀少年』といったエンターテインメント作品をはじめ、『明日の記憶』『MY HOUSE』といったシリアスなドラマ作品まで手掛ける職人的な監督だ。

彼が東野作品に取り組むのは、2015年の『天空の蜂』以来、2作目となる。「原作に書かれていることはたいへん難易度の高い内容ですが、それはどの夫婦にも親子にも突きつけられる究極の問題であり、だからこそ挑戦すべき作品だと確信しています。考えれば考えるほど“他人事”ではない。いろんな意味で“代表作”になる自信があります」と語る堤監督。その言葉どおり、鑑賞後にさまざまな問いかけを投げかける本作。だからこそ深い余韻がしみ渡る。

(文中一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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