医師も患者も、バイアスだらけで動いている 医療現場の「行動経済学」とは?
京都大学の本庶佑特別教授のノーベル医学生理学賞受賞が決まり、日本中が湧いている。この素晴らしい快挙の一方で、医療現場では混乱も生じているようだ。がん治療の現場で、医師が手術を選択したにも関わらず、患者側からオプジーボを使用したいと相談があるようなのだ。なぜ、患者側はそう考えるのか。本書は、その「なぜ」に答える本である。
生きるか死ぬかの瀬戸際で快挙の報道を目にしたら
当然のことだが、医師はオプジーボの存在は知りつつ手術を選択している。冷静に考えれば、患者もそれはわかるだろう。しかし、生きるか死ぬかの瀬戸際で、毎日のように「オプジーボで命を救われました」という報道を目にしている患者の気持ちもわかるような気がする。
このような医療現場の意思決定について、現在の医療ではインフォームドコンセント(説明と合意)という手法が一般的にとられている。しかし、情報さえ提供すれば、患者は合理的な判断をできるのだろうか。本書の執筆チームは、ここに昨年ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の発想をとりいれて鋭く切り込んだ。その発想とは、次のようなものである。
“伝統的な経済学の人間像が、高い計算力をもち、取得したすべての情報を使って合理的に意思決定するという、ホモエコノミカスとして想定されていたことを思い起こさせる。行動経済学では、人間の意思決定には、合理的な意思決定から系統的に逸脱する傾向、すなわちバイアスが存在すると想定している。 ~本書「はじめに」より”
行動経済学を理解するには、具体的な事例が不可欠だ。本書が力作なのは、わかりやすい事例が多数紹介されている点である。適切な表現の力で医師と患者の溝を埋める「医療現場の行動経済学」の本だけに、読者との溝を埋めるのにも長けている。その事例の一つを、本書から引用したい。
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