医師も患者も、バイアスだらけで動いている 医療現場の「行動経済学」とは?

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“ある手術を行うかどうかについて、つぎの情報が与えられたとき、あなたは手術をすることを選択するだろうか。

A「術後1か月の生存率は90%です。」

では、つぎの情報が与えられたときのあなたの選択はどうだろう。

B「術後1か月の死亡率は10%です。」  
  ~本書第2章「行動経済学の枠組み」より”

“医療者にこの質問をした場合に、Aの場合なら約80%の人が手術をすると答えたが、Bの場合なら約50%の人しか手術をすると答えなかったという研究がある。  ~本書第2章「行動経済学の枠組み」より”

同じことを言っているにも関わらず、反応が全く異なっている。医療行為に与える影響は大きいだろう。これは、リスクへの態度に関する人々の意思決定の特徴を示したプロスペクト理論(損失回避や確実性効果)を背景にしたもので、フレーミング効果というらしい。行動経済学の主要な理論の一つだ。

行動経済学に関する本は、これまでにもHONZで何度か紹介されてきた。今後おさえておきたい考え方の一つである。第2章では、その考え方の枠組みを非常にわかりやすく、かつ簡潔に紹介している。本書は、行動経済学のおさらいをしつつ、医療現場の課題解決へ活かす方法を紹介している。

つまり、基礎編と応用編が一つになった類まれなる高コスパ本なのである。さらに、自身や親族が病気になった際の、医師との接し方のノウハウまで身につくというオマケまでついてくる。プロスペクト理論の「損失回避」を促すような言い方で恐縮だが、要するに「買わなきゃ損」の一冊といえる。

ほかにもバイアスは存在する

他のバイアスをいくつか紹介していこう。一般的に患者は「ここまでやってきたのだから」と違う治療に移るのに抵抗があるそうだが、これはサンクコストバイアスというらしい。この場合は、過去のことは忘れて、これからどうするのが最善なのかをゼロベースで考え直すべきだという。

また、「がんが消えた」という情報に踊らされるのは、利用可能性ヒューリスティックというそうだ。合理的な情報を軽視して、身近なところで入手した情報を信じてしまうバイアスのことである。

効果が認められている「がん免疫療法」は、オプジーボなどほんの一握りに過ぎない。しかしノーベル賞報道で「がん免疫療法」という言葉がひとり歩きして、混乱が生じているときく。誇大広告の「広義のがん免疫療法」には、くれぐれも注意しなければならない。

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