医師も患者も、バイアスだらけで動いている 医療現場の「行動経済学」とは?
患者側のバイアスばかりあげられると、読者は馬鹿にされたようで気分が悪くなるだろう。しかし、本書が素晴らしいのは、医師・看護師のバイアスにも触れている点だ。例えば、過去に自分がみた患者の重い副作用の記憶などが、バイアスになってしまうこともあるという。
医者と患者にある溝を埋めるためには
「医者と患者双方が、よりよい意思決定をするうえで役立つ一冊!」
本書のオビをあらためて見直すと、こう書かれている。多くの患者が「なぜお医者さんは不安な気持ちをわかってくれないのか」と思う一方で、医者は「なぜ患者さんは治療方針を決められないのか」と考えている。この溝を埋めるのが本書の目的なのだ。
どう埋めれば良いか。本書では、その具体的な方策も示している。それが例えば、リバタリアン・パターナリズムである。リバタリアン・パターナリズムとは、本人の選択の自由を最大限確保したうえでより良い選択を促す仕組みのことだ。本書から引用する。
“代表的なものにナッジがある。ナッジとは、「軽く肘でつつく」という意味である。例えば、企業年金に全従業員を加入させておいて、制度からの退会を自由にしておくことは、デフォルト(初期設定)から変更しにくいという人の特性を使ったナッジである。 ~本書「はじめに」より”
他にも、日本では10%前後と低いのにフランスでは100%に迫る水準となっている臓器提供の意思表示の例や、カフェテリアで果物を目の高さに置いて果物の接種を促す例など、様々なナッジを使ったリバタリアン・パターナリズムの事例が紹介されている。
がん検診の受診率をあげるにはどうしたらよいか、子宮頸がんの予防行動を促すにはどうしたらよいか……本書には、他にも、興味深いアイデアが充満している。医療現場のいずれ劣らぬ大問題だ。しかしもちろん、行動経済学のアプローチが有効なのは医療現場だけではないだろう。自分と周囲の接点すべてに、この視点をとりいれてみたいものだ。
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