金正恩が進める北朝鮮「働き方改革」の中身

生産性によって賃金格差も発生か

その結果、たとえば、ある工場が国の生産計画を超過達成するか、従業員の自主的な努力によって新製品を生み出すなりして収益を拡大すれば、その一部がボーナスとして従業員に支払われる可能性が出てきた。従業員が効率化の方法を見つけ出せば、コスト削減効果の一部は全体的な賃上げとなって従業員に還元される可能性もある。

北朝鮮では国以外に誰も従業員を雇うことはできない。北朝鮮の法律では、個人が個人を雇用するのは現在でも違法だ。北朝鮮の民間企業、つまり世帯ベースで経営される個人手工業や自営業が雇い入れられる従業員数にも上限が課せられている。

こうした状況の中で、一部地域の国営企業が好業績を上げるようになり、ほかよりも高い賃金を支払うようになったとしたら、どうなるか。そうなった場合には、非公式な民間セクターでも賃金相場が上昇することになるだろう。個人手工業や自営業を営んでいる世帯は、ほかの世帯と協力して仕事をする場合も含めて、これまで以上に報酬を弾まなければ働き手を確保できなくなるということだ。

2014年に導入された新しいシステムによって労働規制は改善され、事業体の裁量も拡大した。しかし、民間の労働市場に対する正式な規制がないのは問題だ。北朝鮮には民間の労働市場が規制されているものの実在するが、公式に存在を認められているわけではない。

プリペイドカードで給料支給も?

北朝鮮国営メディアや政府刊行物では全般的に新しいシステムの詳細が報じられることはないため、制度改革の実際の進捗状況は不明だ。「曙光」のような北朝鮮メディアでは、最低ラインを上回る水準であれば、事業体は自由に賃金を決められ、現物や現金どころかプリペイドカード経由での賃金支給すら可能になったという大規模な変化が話題になっている。

ただ、一般に公開されている法律や経済政策関連の専門誌には、このような変化を示す記述は今のところ現れていない。したがって、「曙光」で言及された新しい仕組みが実際にどのようなものなのかは判然としない。

とはいえ、北朝鮮の賃金システムが金正恩氏の大改革の対象になっているのは間違いない。この点は、北朝鮮の公的情報によっても確認できる。

確かに詳細には不明点が多いが、どうやら北朝鮮の事業体は従業員の俸給支払いにおいて相当な裁量権を与えられたようだ。ということは、生産性の極めて高い事業体と生産性の低い事業体の間では、賃金(現物、現金の両方)に相当な格差が生じている可能性が高い。

従業員に対して何をどれだけ支払うのかを事業体がますます自由に決められるようになった今、北朝鮮経済には大きな変化が起きている。

(文:ピーター・ウォード)

筆者のピーター・ウォード氏は、韓国ソウル大学の社会学修士課程に在籍。
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