金正恩が進める北朝鮮「働き方改革」の中身 生産性によって賃金格差も発生か
しかし現実には、公布された法律や公的な専門誌に掲載された論文の記述を超える、もっと革命的な現象が起きている模様だ。北朝鮮シンパの在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)が発行する朝鮮新報が報じたところでは、2013年に新しい賃金制度が試験的に導入された工場では従業員の賃金が大幅に上昇したという。朝鮮新報はまた、「金正淑(キム・ジョンスク)平壌製糸工場」でも2016年に国の生産計画を超過達成し、従業員に大規模な還元が行われたと伝えている。
前出の『経済研究』に掲載された別の論文も、各事業体の従業員が生み出した実際の利益は少なくとも部分的には従業員の賃金に反映される、としている。つまり、製品の販売価格によっても賃金は変動するということだ。
裁判所や地方の行政機関、学校など、直接販売可能な製品を持たない組織で新しい仕組みがどのように機能しているかはよくわからない。こうした組織の従業員に対しては政府予算から賃金が支給されているはずだが、ここ数年で給与明細に変化があったのかどうかもはっきりしない。
お上の狙いは生産性向上
新しいシステムに関する法律を見ると、「現実の状況に沿った」労働基準や賃金体系を創出することとされており、柔軟性が強調されているのがわかる。これはすなわち、各事業体はイノベーションによって生産性を向上せよ、とのお達しだ。北朝鮮では現在でも国家が事業体を支配・監督しているが、イノベーションにおいて事業体が果たすべき役割は明らかに拡大している。
工場などの事業体に対しては、研修や訓練を通じて従業員の能力を継続的に引き上げることが奨励されている。従業員のスキルが高まれば、生産性が向上し、賃上げが実現しやすくなる。
また、労働力価格の客観的な指標は名目上、現在も国が定めているが、実際の製造物や製造プロセスは既存の基準が現実に対応していないこともあって、事業体の判断で自由に決定できる。