金正恩が進める北朝鮮「働き方改革」の中身 生産性によって賃金格差も発生か

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北朝鮮で着々と進んでいる「賃金制度」の見直しとは(写真:北朝鮮ニュース)

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が重要な法改正を密かに進めている。北朝鮮は共産主義国だが、現実の経済だけでなく、法律の中でも市場原理の存在感がますます大きくなってきているのだ。こうした大変化が起こっている分野の1つが、労働力の価格、すなわち賃金である。分析からは次のようなポイントが浮かび上がってきた。

● 古い制度では中央が労働基準や賃金、ボーナスを決定していたが、現在では中央の規制・監督はありながらも、実際の賃金は各事業体が決定する、という新しい制度に置き換えられてきている。
● 現物支給の差配はかなり前から各組織に任されるようになっており、組織間の現実の格差は見掛け以上に広がっている。
● 北朝鮮の政府プロパガンダでは現在も「社会主義的な分配」(相対的な公平性)の重要性が強調されている。
● しかし、市場経済型の改革は北朝鮮の社会主義的な賃金体系にも適用され、事業体ごとの収益差が直接、賃金に影響するようになっている。これは、格差拡大を法的に容認する事態へとつながっていく可能性がある。

資本主義化する北朝鮮

「チュチェ思想を実現するための経済管理手法」。1960~1990年代にかけて存在した古い制度の下では、労働者には通常、定額の賃金に加え、国の生産計画を超過達成した場合にボーナスが支払われていた。また配給や現物支給も行われており、その内容や量は職場での階級や職務内容、所属組織の国家的序列、組織の生産能力などで差がつけられていた。

本記事はNK News(北朝鮮ニュース)の翻訳記事です

俸給などの支給において国営企業の裁量が増したのは、1990年代に大飢饉が起きてからだ。これにより、国営企業、政府機関、農場といった組織間の相対的な能力の違いが俸給に反映されるようになってきた。旧来の俸給システムは金日成氏が最高指導者だった時代に比べると大幅に役割を縮小してきている。しかし、旧来の制度は依然として北朝鮮の国家システムの一角を成しており、朝鮮労働党の機関紙・労働新聞では今日でも、人民の生計を保障する重要な仕組み、と位置づけられている。

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