金正恩が進める北朝鮮「働き方改革」の中身 生産性によって賃金格差も発生か
金正恩氏が最高権力者になってから始まった改革は、言葉上はかなりオブラートに包まれたものとなっている。たとえば、一般に公開されている文書で「市場」という言葉が使われることはほとんどない。しかし、政府刊行物などを見ると、事業体には「事実上の経営権」とともに「かつてない自主性」が付与されたことがはっきりと示されている。労働基準や賃金の設定も、こうした「事実上の経営権」に含まれる。
2014年になるまで、北朝鮮の事業体が支払うことのできる賃金には厳しい規制がかけられていた。出来高払いは一般化していたが、国営企業の賃金には明らかに上限が課されていた。
「新しい賃金制度」はどんなものか
旧来のシステムを変革する試みが始まったのは2013年。翌2014年には「社会主義企業責任管理制」が完全導入され、これにより事業体は自由に賃金を決められるようになった。この点は重要だ。なぜなら、労働力の価格はもはや中央政府によって計画・設定されるものではなくなったことを意味するからである。
もっとも、2014年に導入された社会主義企業責任管理制は民営化を意味するものではない。北朝鮮政府は株式市場を創設してもいなければ、主要国営企業に対する政府保有株を売りに出すようなこともしていない。財産権も改革されることはなく、ほとんど昔のままとなっている。しかし従業員の賃金を差配しているのは、現在ではもはや中央政府の経済官僚ではなく、各事業体だ。
実際、新制度が導入されてからというもの、北朝鮮の工場経営者には「おのおのが独自に労働基準や賃金規定を考案するように」との指令が下っている。北朝鮮で刊行されている専門誌『経済研究』の最新号に掲載された「工場および事業体における労働補償決定の重要問題」という論文によれば、新しい賃金制度とは次のような手順で導入される。
事業体はまず、労働者の生産活動に対する評価方法や、それぞれの給与等級に対応した仕事内容などを定める必要がある。次いで、これらの決定事項を「企業総合労働基準登録表」なるものに登録するのだ。
つまり、少なくとも表向きは企業にはフリーハンドは与えられず、一般的な労働基準は今もお上が定めることになっている。