ストーカーと運命の恋愛を分ける紙一重の差 「思い込みが激しい」男性に訴えたい女性心理

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小川:「運命的な出会い」と「ストーカー」は紙一重ですね。私も、成功したから良かったけど、もし夫が嫌がっているのに運命と思い込んでアプローチし続けたらストーカーだったので。

:得てして男性が勘違いして、ストーカーになってしまうことが多いんです。女性に比べるとコミュニケーション能力が低く、なかには暴走してストーカー化してしまう、というケースも報道されています。

小川先ほども出た職場で女性が笑っているのを勝手に恋愛感情と履き違えてセクハラになってしまう、というのもその例ですね。

:勘違いや、その延長に挙がる痴漢の問題に関しては、小川さんの著書『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』でも触れられていましたね。僕がいちばん驚いたのは、痴漢をする男性の中には、「女性は痴漢行為によって性的な快楽を得ている」と思い込んで、悪いことをしているという意識すら持たない人がいる、ということでした。そもそも彼らは、どうしてそんな勘違いをするのでしょうか。

小川:1つはそう思い込まなければやり続けられないから、というところがあるのだと思います。加害者臨床の専門家に聞くと、「痴漢は犯罪」と言われているけれど、自分の場合は相手が抵抗しなかったから「犯罪じゃない」と思っている人もいるのだそうです。「触られた女性は、怖くて抵抗できない」なんて想像すらしていないのか、想像しないようにしているのか、そこはわからないですが……。

:スリル感と成功体験を積み重ねていって常習化してしまうんですね。

恋をたしなめる大人であるために

小川:私は、江戸風俗研究家で漫画家の杉浦日向子さんが大好きなのですが、彼女は『うつくしく、やさしく、おろかなり―私の惚れた「江戸」 』の中で、江戸時代の恋愛について次のように記しています。

ランク付すれば、愛は、他人に横どりされるぐらいなら、壊してしまうタイプで、男女間に置き換えれば、最低。恋は、発展途上。生殖が完了すると急速に冷めてしまうので要注意。色は、人情の機微を知ってこそ楽しめる、卒業のない生涯学習といえる。

林さんの著書ではエピソードはすべて「恋」と呼ばれていますが、なかには杉浦さんの言葉でいうと「色」にあたるものがたくさんあると思います。

『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(小川たまか/タバブックス)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

:まさに。「卒業のない生涯学習」っていい言葉ですね。

小川:本来ならば、恋の駆け引きは成熟した大人同士でないとできないもの。それを大人になっていない者がやろうとすると、勘違いが生まれてストーカーになってしまったりする。林さんの小説にも、妻子ある男女が出会って、1年間限定と決めて恋をする話がありますよね。いい話だなと思いました。不倫はひどくバッシングされる傾向にありますし、私もお互いの家族を巻き込んで傷つける泥沼不倫みたいなのはちょっとどうかと思う。

でも節度を保って、「好きだけどのめりこまない」とお互いに確認して、別れるときを決めて付き合う。不倫のあるべき姿というものがあるとすれば、あれかなと思いました。

:大人になって余裕ができて、世の中のさまざまなことがわかってからはじめてできる恋がある。「たしなみとしての恋」を楽しむ、これも粋なことだと思います。

(構成:アケミン 撮影:牧野智晃)

林 伸次 「bar bossa」店主

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はやし しんじ / Shinji Hayashi

1969年徳島県生まれ。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年にbar bossaをオープンする。2001年、ネット上でBOSSA RECORDをオープン。選曲CD、CDライナー執筆多数。『カフェ&レストラン』(旭屋出版)、『cakes』で連載中。著書に『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか』『バーのマスターは、「おかわり」をすすめない』(ともにDU BOOKS)、『ちょっと困っている貴女へ バーのマスターからの47の返信』(アスペクト)、『ワイングラスの向こう側』(KADOKAWA)、『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)がある。

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小川 たまか ライター

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おがわ たまか / Tamaka Ogawa

1980年、東京都出身。ライター。文系大学院卒業後、フリーライターを経て2008年から編集プロダクション取締役。2018年4月に独立し、再びフリーライターに。2015年頃から主に性暴力の取材に注力。Yahoo!ニュース個人「小川たまかのたまたま生きてる」などで執筆。『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)は初の著書。

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