英国では「五輪ボランティア」が殺到した事情 大事なのは無償とか有償とかではない

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一方、2016年のリオ大会の場合はどうだったのだろうか。ブラジルは、イギリスほどボランティア精神が根付いていないとされており、リオ市が募集した約1700人の「シティ・ホスト」と呼ばれるボランティアの人たちは有償だった。

この大会で、リオ組織委員会が募集した無償の「大会ボランティア」として参加したのが、日本の会計事務所に勤める赤澤賢史さんだ。ちょうど2012年から2016年末までブラジル・サンパウロのKPMG/あずさ監査法人のオフィスに派遣されており、「南米では初めてのオリンピック開催は歴史的なイベント、ぜひ参加しなければ」と申し込んだ。

自ら志願したからこその喜びがあった

サンパウロからリオまでは450キロほど離れていたが、事前研修は休みを利用しながら参加して、実際のボランティアに臨んだ。担当はゴルフ会場の「国際プロトコールチーム」でのアテンド業務。ここには各国の政府関係者、競技関係者の役員が訪れた。

リオ大会にボランティアとして参加した赤澤さん(左から2人目)(写真:赤澤さん提供)

参加日数はトータルで10日間。途中に土日を挟んだので丸々休んだ1週間を除くと、会社の業務とのやりくりはそれほど難しくなかったという。

リオの場合も大会ボランティアの場合、日当は出なかったが、リオ市内の公共交通機関で使えるプリペイドカードが支給されたほか、食費は運営側が負担した。赤澤さんの場合、サンパウロとリオの往復交通費および現地での宿泊代は自腹。エアビーアンドビーや駐在員の家族グループと廉価な場所を探したという。

オリンピック終了後は、赤澤さんはパラリンピックでもボランティアを継続。ボランティアの経験を大いに楽しんだようだ。「即興のチームで、さまざまな国籍のさまざまな国から来た人たち」と力を合わせながら、ポルトガル語を使って大会を成就させた喜びがあった。チームの士気は高く、「自ら選択したボランティアであったからこそ、本当の笑顔で対応できた」と赤澤さんは思っている。すでに、東京大会のボランティアにも申し込みを済ませている。

今後も、「東京大会のボランティアを有償にするべき」という声がしばらく続きそうだが、「労働」あるいは「人にやらされている」と思えば、同じ作業でも感じ方はまったく異なりそうだ。もし東京で大会ボランティアが有償化となれば、少なくともイギリス人は非常に驚くに違いない。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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