英国では「五輪ボランティア」が殺到した事情 大事なのは無償とか有償とかではない
「誰かほかの人に恩恵を与えるために、無給で活動をする」=ボランティアの精神は、イギリス人の生活のあらゆるところに根付いている。
イギリス内で町中に頻繁に設置されているのが、中古品を販売する「チャリティ・ショップ」だ。店自体は慈善組織の運営となり、市民がもう着なくなった衣服、おもちゃ、書籍、食器などを持ってきて、これを廉価で販売する。代金の大部分が慈善組織の設置目的(がんの研究、高齢者支援、貧困者の救済など)に使われる。
各店舗にいるマネジャーは給与を得るが、持ってこられたさまざまなものを仕分け、レジで販売する人は全員が無給のボランティアである。同様の作業を一般の小売店でやれば、いくばくかの賃金が得られるが、あえてここにきて空いた時間を提供している。もし無給のボランティアがいなかったら、チャリティ・ショップ体制は崩壊するだろう。
イギリスで困窮状態にいる人を支援する仕組みは、12世紀以降、キリスト教の教会が中心となって進められてきた。18世紀にはボランティア活動の原型となる「ボランタリー連盟」が各地で設置され、19世紀以降、慈善団体が次々と生まれていった。今では国際的な慈善組織となった「オックスファム」(1942年創設)もその1つだ。
年間を通じてボランティア活動する人は約3割
筆者の隣人ジェーン・ウオーカーさんは80歳を超えた1人暮らしの女性。何十年も前から、近隣の養老施設を訪問している。体が動けなくなった入居者には「話を聞くことしかできない」というが、「自分が使わなくなった刺しゅう入りハンカチを持っていたら、すごく喜んでもらえた」と嬉しそうに語る。相手の喜んだ顔が彼女に喜びを与えるのである。
NCVOが調べたところによると、イギリス内で特定の組織やグループを通じてボランティア活動を「少なくとも1カ月に1度」行った人は27%、「少なくとも1年に1度」は41%に上った(『コミュニティ・ライフ・サーベイ』2015–16年)。
活動内容はその組織のために「資金集めをした」「イベントに参加した」「イベント運営を支援した」が大部分を占めた。組織の種類は「スポーツ」「趣味」「芸術」「社交」「宗教」など。活動理由は「人の生活を向上させる・支援するため」(61%)、「組織の目的実現のために」(39%)、「余裕の時間があったから」(30%)、「自分のスキルを使いたかったから」(30%)が上位にきた。
イングランド地方で、スポーツ分野でのボランティア活動を奨励する組織「スポーツ・イングランド」によると、同地方の人口の14・9%に当たる約670万人がスポーツや運動にかかわるボランティア活動を行っているという。「ボランティアの介在がなかったら、こうした活動は止まってしまう」(『ボランティア活動のビジョン』より)。具体的には「コーチング」「ランニングの交通整理」「運営資金の管理」「参加者の送迎」「運動用具の清掃」などボランティア内容は多岐にわたる。
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