自由時間はほとんどない生活で何を身につけるか
――男子だけのコミュニティで6年間を過ごすというのは、どういう感じなのでしょうか?
もちろん、ケンカはしょっちゅうありますよ。男だけで約700人が共同生活を送るわけですから、個人の価値観はぶつかります。だからこそ規律が必要になります。寮の中ではマンガもゲームも禁止です。携帯も学校で預かり、授業中もハウスの中でも使用を禁じています。
――マンガも禁止ですか……。ゲームはわかりますが、『ONE PIECE』くらいは多くの高校生が読んでいるし、多少はいいという気もします。こうした規律は「イマドキ」の子供たちには理解されないのではないですか?
残念ながら、うちの校風が合わずに、別の道を選ばざるをえない生徒がいることも事実ですが、規律がイヤで辞める生徒は少ないですね。辞める生徒の多くの理由は、「逃げ場がない」ところにあると思います。なにせ、寮と学校で四六時中一緒にいるわけですから。授業さえ終われば後は自由に過ごせる、ということはありません。放課後も予定がびっちり入っています。基本的に部活動は全員加入必須。多忙かもしれませんが、そこから時間を“作る”ことを学ぶのですから。なお、マンガについては雑誌を禁じています。それは、読書に親しむ機会を奪いかねないからなのです。
「学生時代は忙しいくらいがちょうどいい」。校長が語るように、海陽生の1日は多忙を極める。下図は海陽学園生の1日だ。6時15分に起床し、22時30分の就寝まで、18時から20時の2時間を除いて自由時間はほぼ、ない。
取材中、ちょうど部活動を終えた生徒たちが続々とハウスに戻ってきた。ここからはFMとHMの出番だ。校長いわく、FMとHMという仕事、なかなかに大変らしい。
大変なのは生徒だけではありません。FMはもっと大変かもしれません。今まで身を置いてきた会社組織とはまったく違う環境です。会社組織では肩書や指揮系統で部下をまとめることができた。ですが、ここではそうはいきません。一般的には反抗期を迎える年齢です。中にはやんちゃな生徒もいて、ただ頭ごなしに命令しても、「そんな規則とか命令なんか従えるか!」と反抗心をむき出しに、FMやHMに食ってかかります。
それに、もし、寮内での逸脱行為、たとえば、いじめやケンカがあれば、その責任は生徒と学校が負います。ケンカした生徒の親同士が出て、謝るなんていうことはありません。
ですから、FMとHMの責任は重大です。では、いかに生徒と話をしてわかり合っていくのか、FMの中には夜中まで生徒とじっくり話し込むことがあるようです。いわば彼らの“人間力”が試されているのです。
生徒たちもそうやって社会人と接していくうちに、自分が将来「こうなりたい」という理想像をぼんやりと描くようになります。「ならば、なすべきことはなにか」、どこの学部に進学したいのか、自分の将来から逆算して考えるようになります。だからうちは東大の合格者数だけにこだわらないし、こだわりたくない。基礎学力は人間形成のうえで、必要条件ですが、十分条件ではありません。