日本と北朝鮮「大学生14人」の交流に見た現実 平壌に約1週間滞在した堀潤氏がリポート

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街中ではタクシーや路面バスが頻繁に行き交っていますが、乗車率の高さが目立ちます。去年よりもタクシーの台数が増えたとJVCの宮西さんは驚いていました。 フォルクスワーゲンやベンツなどのドイツ車に加え、日本のトヨタや日産車も走っています。国連の経済制裁の影響で昨年度こそマイナス成長となったものの、この十数年、北朝鮮は経済成長を続けてきました。平壌では人々の生活が底上げされてきたといいます。ドイツやオランダなどヨーロッパからの観光客もいます。日本、アメリカ、韓国とは国交がありませんが、そのほかの多くの国々と国交がある国であるというのを忘れてはなりません。

「報道で見ていた街並みと印象が違う」

一行を乗せたバスは、高さ170メートルを誇る「主体思想塔」へ。最高指導者の金日成氏の生誕70年を記念して建てられた塔で最上階が展望台になっています。エレベーターで上がると平壌市街地を一望できます。観光スポットの1つだといいます。最上階から見る平壌の様子は爽快でした。市内を流れる大同江(テドンガン)を挟んで東西にまたがって街が広がっています。人口は約250万人。北朝鮮の全人口の1割が首都で暮らしていると言います。ピンクや緑のカラフルな集合住宅が密集する伝統的な地域から高層ビル群が並ぶ新しい開発地域までどこを切り取るかでその表情はさまざまです。日本の学生たちも「報道で見ていた街並みと印象が違う」と驚きを隠せない様子でした。

主体思想塔から見下ろした平壌市街地(写真:日本国際ボランティアセンター(JVC))

新しい高層マンション群が立ち並ぶ一画は「未来科学者通り」と名付けられ、科学者や研究者が優先して入居できる特別区です。科学技術の向上を国家戦略に掲げており、担い手である科学者を優遇し、将来の人材確保にもつなげていくのが狙いだと同行した政府関係者は語っていました。 核兵器の開発に成功したいま、これまで核開発と経済発展の両輪に投入してきた国家予算を、いよいよ科学技術と国民生活の向上に充てることができると期待をにじませていました。

未来科学者通り(写真:日本国際ボランティアセンター(JVC))

道中のバスで平壌の女子学生といろいろな話をしました。「流暢な日本語をどのようにして学んだのですか?」そう訊ねると、小学生の頃から日本に興味があったという学生の答えは意外なものでした。 「『ハウルの動く城』。歌を歌いながら歌詞から日本語を学びました。『となりのトトロ』の歌も歌えます。面白かったアニメは、小さいときに観たからいちばん印象に残っているのが『天空の城ラピュタ』。ラピュタは精神がいい。故郷を守る。郷土愛がありますよね。共感します」。ジブリ作品は彼女の心に郷土愛を感じさせたというのです。

そんな彼女にもう1つ質問をしてみました。国連の経済制裁についてです。この回答にも驚きました。 「正直しんどいです。生活の質を落とさなくてはいけなくなったから。私の趣味は休みの日に雑貨屋さんに行って食器やキッチン用品を見ることなんですね。制裁が始まってから、海外からのかわいいものが入ってこなくなって国産品に代わっていきました。国産品はあまりかわいくないので、少し悲しいです」。

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