除染費用にも国費投入、東電救済のアリ地獄 機構法に基づく支援の破綻で見直し不可避
破綻処理論も再燃
政府はこれまで、原発事故の一義的責任は東電にあるとしてきた。その東電の負担が国費や電気料金の形で次々と肩代わりされていく現状に対し、「なし崩しの国民負担、東電救済であり、透明性や説明責任を欠く」(電力政策の民間研究員)との受け止めは与野党議員を含めて多い。
国民に新たな負担を求める以上、東電をどうすべきか、破綻処理を含めて根本的に議論し直すべきとの主張だ。機構法の附則にも、事故原因の検証や賠償状況などを踏まえ、政府や東電の株主、その他の利害関係者(銀行など)の負担のあり方を早期に検討すると明記されている。
ただ、破綻処理となると、これも簡単な話ではない。安倍晋三首相は国会で、会社更生法に沿って東電の法的整理を進めた場合、「被害者への賠償や現場で事故収束作業に当たる関係企業の取引債権に対し十分に支払いできないおそれ」があるほか、「海外からの燃料調達や権益確保に支障が生じるおそれがある」として、否定的な考えを示している。昨年7月に機構(国と電力業界の折半出資)を通じて東電に出資された1兆円も戻ってこなくなる。
金融市場関係者の懸念も強い。「破綻処理は現実的ではない」と、米格付け会社ムーディーズで電力業界を担当する廣瀬和貞・シニアクレジットオフィサーは指摘する。「東電向け融資(残高4兆円弱)が毀損すれば、銀行は東電にここから先、ビタ一文出せなくなる。何かと資金が必要な状況で民間銀行の支援がなければ、政府はさらに税金を投入せざるをえない」。
また、東電には4兆円を超す社債の残高がある。「電力債は一般担保がついており、返済順位は高い。とはいえ、破綻処理の場合、全額返ってくるかは裁判所の判断もあり不透明。他の電力債、ひいては日本国内の社債市場全体(残高約60兆円)への影響も懸念される。もし市場が暴落すれば、第2のリーマンショックの引き金ともなりかねない」(廣瀬氏)。
一方、破綻処理後も東電の社債がカットされる可能性は低く、金融不安は回避できるとの見方もある。「銀行が経営難に陥れば、公的資金を投入すればいい」(河野太郎・自民党副幹事長)し、破綻処理後に東電を国有化し、銀行の新規融資に国が債務保証をつけるという案もある。被害者への賠償についても、東電に代わって国が全面的に責任を持つべきとの意見があり、なお議論の余地がある。
今回の提言は、廃炉・汚染水対策の実施体制を明確化するため、東電の廃炉部門を分社化することも求めている。これを受け、東電は社内分社化を軸に検討している。だが、東電の事故収束対策がうまくいっていないのは、福島の廃炉作業と同時に、柏崎刈羽原発の再稼働を経営課題とするという分裂状況にこそ原因があるとも指摘される。今の東電には原発再稼働の資格はなく、柏崎刈羽原発は廃炉もしくは東電から分離売却すべきとの議論だ。
今後国会では、原発運営者としての東電のあるべき姿も含め、国民が納得のいく抜本的な議論が求められる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら