植物状態の患者が持っている認識能力の正体 「グレイ・ゾーンの科学」とは何か

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ところで本書は、そこで紹介されている研究内容が刺激的であるだけではない。その筆致やストーリー構成もじつに見事なのである。

「声なき人」はけっして少なくない

なかでも、植物状態の患者と意思疎通するなかで、「痛みを感じているか」や「死にたいか」を訊くべきかどうかで紛糾する場面などは、その現場に走る緊迫感がこちらにも伝わってきてゾクゾクさせられる。

『生存する意識』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

また、本書の随所で挿入される、植物状態になった元恋人のエピソードも心を惹く。そのように、本書は読者の心をつねに鷲づかみにしたまま、刺激的な探究の旅へと連れていってくれるのである。

最後に、本書が突きつけてくる問題について言及しておこう。オーウェンは、植物状態と診断されている患者の15~20%が、「外部刺激にもまったく応答しないにもかかわらず、完全に意識がある」と推測する。

わたしたちの周囲に存在する「声なき人」は、けっして少なくないというのである。その推測を重く受けとめるならば、わたしたちはグレイ・ゾーンの科学のさらなる発展を願うとともに、「声なき声」に耳を傾けるように努めなければならないだろう。

締めくくりに、オーウェンの最初の患者であり、のちに奇跡的な回復を果たしたケイトの痛切なメッセージを引用したい。

介護にあたる人たちは、私は痛みを感じられないと言っていました。とんでもない思い違いです。……[とくに肺から粘液を取り除かれるときなどは]どんなに恐ろしかったか、言い表しようもありません。
どうしても覚えておいてほしいことがあります。それは、私が先生とまったく同じで、一人の人間であること。そして、先生と同じで感情を持っているということです。
澤畑 塁 HONZ

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1978年生まれ。専門書出版社に勤務。営業職。大学では哲学を専攻していたものの、最近の読書はもっぱらサイエンス系。ふたりの子どもと遊ぶ時間のため読書時間は半減しているが、それはそれでわるくないと感じている昨今。

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