植物状態の患者が持っている認識能力の正体

「グレイ・ゾーンの科学」とは何か

植物状態の患者が認識能力を持っていることを科学的に初めて実証した(写真:Peshkova / iStock)

植物状態と診断されながらも、じつは意識がある人たち。そうと示すことがまったくできなくても、たしかな認識能力を持ち、どうしようもない孤立感や痛みを感じている人たち。そうした人たちが置かれている状況を想像し、悪夢とも思えるその可能性に身震いしてしまった経験が、おそらくあなたにもあるのではないだろうか。

上の画像をクリックするとHONZのサイトへジャンプします

だが現在の科学は、その可能性を前にしてただ震えているばかりではない。誰かが現にそうした状況にあるかどうかは、なんと科学的に検証できるようになりつつあるのだ。

本書の著者エイドリアン・オーウェンは、その科学を「グレイ・ゾーンの科学」と呼ぶ。グレイ・ゾーンとは、おもに植物状態と診断されている患者の、「物事を満足に認識できないが、認識能力を完全には失っていない」状態である。

そしてオーウェン自身は、グレイ・ゾーンの科学を力強く推し進めたことで広く世界に知られている。というのも彼は、一部の植物状態の患者に意識があることを初めて実証し、さらには、そうした患者と意思疎通することに初めて成功した研究者だからである。本書は、彼のこれまでの科学的探究を、それ以外のエピソードをも交えながら、わかりやすくドラマチックに紹介するものである。

植物状態の患者の脳の活動を調べるという試み

では、一部の植物状態の患者に意識があることなどいったいどうやってわかるというのだろうか。もちろん患者たちは、自らの身体を使ってそれを示すことはできない。だが、たとえ身体にはできなくても、脳ならできるのではないか。脳なら、自らの意識がそこに閉じ込められていることを示すことができるのではないか。いうなれば「身体に訊いても駄目なら脳に訊いてみな」というのが、ここでの基本的なアイデアである。

オーウェンは1997年から植物状態の患者に脳スキャンを行っている。その最初の患者がケイトで、それまで彼女は認識能力をまったく持たないとみなされていた。そこでオーウェンらが行ったのは、家族や友人の顔写真を彼女の目の前に置き、そのときの脳の活動を調べるという試みである。

次ページ彼女は人の顔を認識できていたのだ!
ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 映画界のキーパーソンに直撃
  • 晩婚さんいらっしゃい!
  • 親という「業」
  • コロナ後を生き抜く
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
「満足度No.1」は本当か<br>英語コーチング広告で紛糾

近年急拡大し伸び盛りの英語コーチング業界が広告・宣伝のあり方をめぐって真っ二つに割れています。大手プログリットの広告に対し、同業他社が猛反発。根拠薄弱な宣伝文句が飛び交う、ネット広告の構造問題に迫ります。

東洋経済education×ICT