働き方を変える「Slack」、急成長の舞台裏 会社の合い言葉は「しっかり働き家に帰ろう」

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「コミュニケーションが個人のメールボックスから、チャネルに移行すると、透明性が格段に増す。ここで言う『透明性』とは、スラックのユーザーがチームのほかのメンバー、あるいは、組織のほかの部署の人たちがどんな仕事をしているのか、という見通しがよくなるということだ。社員だれもが必要な情報を得ることができれば、生産性がアップするだけでなく、職場の雰囲気もよくなる」

実際に導入したシェアオフィス大手「WeWork(ウィーワーク)」コーポレートテクノロジー部門のレノア・バジル上級副社長は、「スラックを使い始めたら、それまであるとわかっていなかった職場の摩擦や問題までもが見える化されて、それも解決することができた」と話す。

スラックが先行するのは、市場投入が早かったからというだけでなく、チャットに焦点を絞っていることもあるだろう。ゆえに、ユーザーインターフェースがシンプルで感覚的に使いやすいし、グループ別ではなく、プロジェクトや用件別にチャットに参加できるというのも使い勝手がいい。連携できるツールが多いのも強みだ。

だが、スラックがユニークなのは、ツールそのものというより、それが生まれている環境にあるかもしれない。まず面白いのが、カナダ出身のバターフィールドCEOの経歴である。

失敗したゲーム事業から誕生したスラック

複数の報道やインタビューによると、元ヒッピーの両親に育てられたバターフィールドCEOは3歳になるまで電気も水道もないログハウスで暮らした。その後、都会に移り住み、両親が買ってくれたパソコンで自らプログラミングを覚えるも、大学ではコンピュータ科学を学ばずに、哲学の学部に進み、修士号まで取得している。

「連続起業家」として知られるバターフィールドCEO(記者撮影)

大学院を卒業してからは、起業したり、フリーランスのウェブデザイナーとして働いたりしていたが、2002年にゲーム会社を設立。ゲーム自体はうまくいかなかったものの、ゲームで使われていた写真共有サービスが人気となり、これが後に「Flickr(フリッカー)」となった。

その後、フリッカーはヤフーに買収され、バターフィールドCEOもヤフーでしばらく働いたが、2008年に退社。2009年に再びゲーム会社を立ち上げるが、これも思うようにいかない。ただ1つ、社内コミュニケーションで利用していたチャットツールは使い勝手がよく、これを軸に2014年にスラックを立ち上げた。

いわゆる連続起業家なわけだが、注目したいのは、バターフィールドCEOの年齢である。同CEOは1973年生まれの45歳。グーグルの創業者2人や、テスラのイーロン・マスクCEOといった上場組と同世代で、ピンタレストやエアビーアンドビーなどユニコーン企業の経営者より10歳ほど上だ。経験値が豊富なせいか、急ピッチで評価額が上がっていることに対しても浮ついた様子はなく、「ビジネス観」もほかのシリコンバレーの経営者に比べると慎重にみえる。

それは、先に調達した4億2700万ドルの使い道を「決めていない」ということからもうかがい知れる。

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