予想外の「3歳の壁」に母たちが動揺するワケ 働く母が抱く「幼稚園」への羨望と葛藤

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ただ、この「幼稚園魅力パターン」が出てくる背景の1つとしては、前々回前回で書いたように、全般的に待機児童の増加とともに保育園の余裕がなくなり、基準が緩くなっているという日本の事情がある。前々回の記事でも引用したコメントを再度引用しよう。

「(今の保育園は)おもちゃは充実しているんだけど、外遊びが少ない。あと(午前中にあまり体を動かしていないからか)お昼寝でほとんど寝ていなくて、(お昼寝の時間の)1時間ぼーっとしてるみたいな話も聞いた。刺激のある環境にうつしてあげたいという気持ちがある」

多くの幼稚園は“専業主婦前提”

こうして共働き親も幼稚園を検討し、悩むのが「3歳の壁」。しかし、魅力的に見えて実際に入ってみるとそれはそれで、“専業主婦前提”のさまざまな壁に突き当たることになる。親の関与が求められる場面はやはり幼稚園のほうが多くなり、平日の昼間参加型のイベントも多い。

「フルタイムで働いていると平日の行事とか……保護者会とかも保育園だったら17時などに始めてくれるけど、幼稚園では昼間の13時からとか。専業主婦の人のスケジュールにあわせている。お母さんの集まりとかもあんまり参加できていない」

もちろん、保育園でも平日の保護者会開催をするところもあれば、幼稚園でも「おかあさんが働いていようがいまいが、必要な方に使っていただければいいです。PTAもできる方がやってくだされば」という姿勢の園もある。しかし、以下のような証言もある。

「延長(預かり)保育の実施をしている園でも、働いているお母さんはお断りの園もある。保育園の先生と比べると親身さに欠ける印象。自分の教育方針についてこられないならやめてくださいという感じ」

3歳児以降、質・量ともに保育園では足りないのであれば、外形的には「幼稚園に行かせればいい」ようにも見える。が、やはり多くの幼稚園は“専業主婦前提”の仕組み下にある。

政府は、2019年10月から幼児教育の無償化を実施する。認可保育所や幼稚園に通う3~5歳児や住民税非課税世帯の0~2歳児の保育料が原則、無料になる。一見、幼児教育に力を入れているように見えるが、実際には安心して通わせられる場所が十分確保できていない状態。女性活躍もうたってきた政権だが、急増する共働き世帯が必要とする保育の質・量の向上は、ますます後回しになったのではないかという気もしてしまう。

次回は、一部の層ではあるが、付属系幼稚園に入れる、あるいは小学校受験を見越してそれが有利になると考えている幼稚園に行かせるという、「受験重視パターン」について別途書いていきたい。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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