「息子は発達障害」栗原類を伸ばした母の信条 「いい親」でなく「子に最良の選択」が重要

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母親であれば、妊娠出産を機に仕事をどうするのか? 悩んだ経験がある人も多いでしょう。積み上げてきたキャリアを捨てて家庭に入るのか? 続けるにせよ仕事をセーブしないといけないのか? それを「みんながやっていることだから」と言われて、素直に納得できるでしょうか? 子育てに関する悩みは、子どもの立場をわが身に置き換えてみると、わかりやすくなります。

ベストな答えは、子ども自身にある

親が子どもにどうあるべきかの答えは、育児書やネットの情報では見つけられません。答えはすべて目の前の子どもの中にあります。自分の子どもに今必要なものは何か、向いているのはどんなことか、それらの答えは外からの情報にはなく、子どもをじっくり観察していくしかありません。

よく見ていると、子どもには小さい頃から、それぞれに好みがあって、楽しいこと、好きなこと、夢中になれることがあります。類の場合は、ゲームや映画、そして音楽と、ほぼインドアな趣味ばかりでした。男の子だからスポーツくらいやったほうがいいだろうと、小さい頃にサッカースクールに入れましたが、まるでやる気なし。

思えば私自身もずっとスポーツはしていなくてインドア派だったわけで、都合よく息子には運動をさせようと思っても、そうは問屋が卸さなかったわけです。

子どもの好きなことが、必ずしも親にとって好ましいもの、望むものではないことを、私たちはよく理解して、大人側がエゴを捨てたほうがいいこともあります。

一般的に「向いている」とは、ほかの人よりうまくできるとか、習得が早いということだとも思いますが、私は「楽しいからやめたいと思わない」「苦痛を感じなくて頑張れる」ことなのではないかと思います。

だからこそ、ずっと続けていけるし、もしかしたら将来的に仕事にもできるかもしれません。子どもの「好き」を見つけて伸ばす。それは類を育てるうえで、特に大切にしてきたことです。

『ブレない子育て 発達障害の子、「栗原類」を伸ばした母の手記』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

類が11歳で俳優になりたいと言い出したときも、向き不向きでいえば「向いていない」と思いましたが、「嫌いな勉強よりも、頑張れるよね」という理由で、モデルやタレントのキャリアを優先させ、俳優の道に進めるよう応援してきました。

俳優の仕事をいただけるようになってからも、表情から感情を読み取るのが苦手な類と、一緒にTVドラマを見ながら俳優の表情を読み取る訓練をしたりもしています。

類が23歳になり、小さい子どもだった頃に比べると、子育てはずいぶんと楽になったとは思います。しかし、まだまだ失敗もあるし、心配なこともあり、子育てはいつになったら終わりということはないのだろうと思います。

類はいずれ1人で暮らし、そして家族を持ち自立することを目標にしています。そのためにはまだまだ身に付けないといけないことがたくさんあります。時間もかかるかもしれません。だけど類は確実に以前よりできるようになったことは増えているし、周囲との関係の作り方なども、なんとかうまくやっています。

自立の目標を20歳や就職のタイミングに置く人は多いのかもしれませんが、うちの場合はもう少し気長に、30歳、もしかしたら40歳になるのかもしれないけど、類なりのペースで、長い目でサポートしていきたいと思っています。

栗原 泉 翻訳家通訳・音楽ジャーナリスト

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くりはら いずみ / Izumi Kurihara

25歳で栗原類さんを出産し、子育てにふさわしい環境を求めて類さんが5歳の時にニューヨークへ移住。類さんが8歳のときにADD(注意欠陥障害)と診断され、自身もADHD(注意欠如・多動症)と診断される。類さんの小学1年での留年や、帰国後中学での不登校などさまざまな困難を乗り越え、類さんがモデル・俳優として活躍する現在まで親子で障害を乗り越えてきた。著書は『ブレない子育て』。

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