じっくり味わいたい著名人の「引き際の言葉」 福田赳夫元首相から巨人の原辰徳元監督まで
歌手やスポーツ選手などが引退する“引き際”には数々の名言が生まれてきた。私たちがそこから学ぶこととは? 誰にでも訪れる離職や異動、退職などに備えて、どう気持ちを整理し、思いを伝えるか専門家の解説とともに見ていこう。
あいさつに慣れた人は、多くの“引き出し”をつくる工夫をしている。
『偉人の命日366名言集』など、言葉に関する著書が多い多摩大学の久恒啓一副学長。スピーチ当日が命日か誕生日の偉人や著名人を見つけ、名言やその人にまつわる話をしている。
辞めるときに残す言葉で、その人の印象は後々まで違う
「心に響く話をするには、磨き抜かれた真実の言葉じゃないとダメ。名言、格言、箴言、金言など人々に長く影響を与えたものがそれに値します。辞めるときに残す言葉で、その人の印象は後々まで違う。あの人の言葉は良かったなと印象づけると大切に思われますが、そつのない平面的なあいさつでは、惜しまれない人になってしまいます」
スピーチ当日にまつわる人の話題に触れるようになったのは、学部長に就任してあいさつの場が増えてから。入学式、卒業式、保護者会、学生のオリエンテーション……。こうした場で魅力的なスピーチをする人が少なかったため、自分はインパクトのあるスピーチをしようと心がけたという。
「聞き手の年齢層も考えます。例えば、付属高校の行事のあいさつならば、本田がこう言っているとかサッカー選手の話を入れると、真剣に聞いてくれます」
久恒さんが、よい言葉の代表例として紹介するのが、井伏鱒二(敬称略、以下同じ)の言葉だ。
「井伏は、『この杯を受けてくれ。どうぞなみなみ注がしておくれ。花に嵐のたとえもあるぞ。さよならだけが人生だ』という言葉を残しました。漢詩の翻訳ですが、オリジナルよりもいいと言われています」
名言の多い政治家としては福田赳夫元首相をあげる。
「1972年の自民党総裁選で田中角栄に負けたとき『総理・総裁は推されてなるもので、手練手管の限りを尽くしてかき分けてなるものではない。いずれ近い将来、日本国がこの福田赳夫を必要とするときが必ずやってくる』と言いました。敗戦の弁として潔さと自負心が感じられます」
スピーチの日はまちまちだから、365日分のネタを用意しているという。毎日、誰かしら著名人の命日か誕生日がある。○月×日が誰に関係ある日かを気をつけており、毎日書くブログで、その日が命日や誕生日の人の人生を弔辞のように記している。