じっくり味わいたい著名人の「引き際の言葉」 福田赳夫元首相から巨人の原辰徳元監督まで
旅行や出張時は、その地の人物の記念館を訪れる。東京の「美空ひばり記念館」や、大阪の「司馬遼太郎記念館」など、著名人の記念館は全国1千館以上。著作や直筆の手紙があり、人物像が丸ごとうかがえる。すでに850館近く訪れた。
「時代ごとに広く影響を与えた偉人がいますが、もっと偉いのは長く影響を与え続ける人。さらに偉いのは死後も影響を与える人です。近代では福沢諭吉がその一人で、教育者として影響を与えています。経済人だと渋沢栄一。会社を500社もつくり、社会貢献事業もしました」(久恒さん)
企業や組織のトップが難しいのは、後進に道を譲るタイミング。創業者や実力者として実権を握るほど、やめどきを誤りやすい。「引き際が肝心といわれますが、うまくいく人はなかなかいません。早すぎるか遅すぎるか、どちらかです」と久恒さん。長く居座りすぎると様々なひずみが生まれるのは、相次ぐスポーツ団体の不祥事からも明らかだ。
引き際に悩む経営者の思い
経済人が半生を振り返る『私の履歴書』(日本経済新聞社)には、引き際に悩む経営者の思いが記されている。元ヤマト運輸社長の小倉昌男は、退任後も自らの顔色をうかがう役員の多さに気づき、「実は自分の存在がマイナスになっていたのか」と一切の役職から退いた。元堀場製作所社長の堀場雅夫は「ワンマン社長の首を切るのは自分自身しかない」と腹を決めた。
経営者と違い、従業員は役職定年や定年退職が一足早く訪れる。久恒さんは退職時のあいさつについて、「定年なんて他人が決めたことで、老いたと考えてはダメ。退職のスピーチは『これから○○をやります』と宣言するといい。それが後輩を元気づけることにもなります」と助言する。
著名人の言葉でも、新天地や次世代への思いは聞き手に前向きな印象を与える。
元巨人の原辰徳は「私の夢には続きがあります。その言葉を約束して、きょう引退します」と宣言。元広島の野村謙二郎は「今日集まってる子供たち! 野球はいいもんだぞ! 楽しいぞ!」と呼びかけた。