飯舘村の「帰還農家」で咲かせた未来への希望 荒れ野の古里によみがえる高原の花々

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2011年6月の第1号には、同時期の放射線量が次のように記されている。【番屋10.18、義平宅前8.12、十文字9.80、国男宅前9.15、馬橋13.45、康裕宅前16.35】(単位はマイクロシーベルト毎時)。地理的に福島第1原発に近い環境から、村内でも高線量の地域になった(東隣が帰還困難区域の長泥地区)。

啓一さんらは「全戸が一緒に帰還する」との目標を掲げ、行政区に「除染協議会」を設け、環境省への要望、独自の除染実験などの活動に取り組んだ。「他の線量の低い地区と一律の除染では足りない。地元の実情を知る、われわれ住民の要望を入れてほしい」というのが一貫した訴えだった。

比曽の全戸で、家屋と周囲の除染作業が行われたのは2015年だ(農地は翌2016年)。啓一さんはその夏、長年の農業、地域づくりの盟友である菅野義人さん(66)、支援者の放射線専門家、岩瀬広さん(42)=茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構=と検証測定を計画。

バイクにGPS付きの放射線測定器を積んで家々をくまなく回り、除染効果を調べた。その結果、多くの家の玄関側で線量は「1」前後に減ったが、居久根(屋敷林)がある裏手は「3~7」もあり、家の中への放射線の影響が懸念された。

環境省の除染は、山林では枯れ葉など堆積物を取り除くだけだったが、原発事故後、放射性物質の大半が林床の腐植土に移行している実態があった。啓一さんらは自前のデータを示し、土をはぎ取る除染を現地担当者に求めた。が、「基準にないことは作業の対象外」と相手にされなかったという。

居久根除染の訴え実らず

2017年9月の初め。帰還に向けて、啓一さんの自宅のリフォーム工事が進み、原発事故前に牧草地だった一角に新しい花作りのハウスが組み立てられていた。比曽の放射線測定を支援してきた岩瀬さんが遠路、そのひと月ほど前、自宅の周りで採取した土の詳しい分析データを持って訪れた。

自宅裏の居久根で放射線量などを調べる岩瀬広さん(左)と啓一さん(2017年9月6日)(撮影:寺島英弥)

牧草地跡では環境省の汚染土はぎ取りの除染が行われ、測定の結果、ハウス用地の2カ所で採られた土の放射性セシウム濃度(ベクレル/1キロ当たり)は、それぞれ「190」と「184」。原発事故後、稲、野菜などの栽培用の土について国が定めた安全性の暫定許容値400ベクレルをはるかに下回った。

しかし、自宅裏の居久根での計測結果を聞いて、啓一さんは「なに、8万ベクレルもあるのか」と声を上げた。居久根の3カ所で採られた林床の土の放射性セシウム濃度は、それぞれ「85720」、「59986」、「19354」。原発事故当時から変わらぬような高い数値だった。国が責任をもって処理すべき指定廃棄物の法的基準「8000ベクレル/キロ」をはるかに超え、啓一さんらの訴えの通り、はぎ取り除染の対象に該当していた。

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