飯舘村の「帰還農家」で咲かせた未来への希望 荒れ野の古里によみがえる高原の花々

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全く対照的なデータもあった。啓一さんは2016年の6月と8月、飯舘村の環境再生を支援するNPO法人「ふくしま再生の会」の協力で、自宅裏の居久根の別の一角で除染実験を行っていた。居久根の端から40メートル奥まで扇状に実験地を広げ、自らが重機のアームを伸ばして高さ約20メートルまで枝を切り、林床を約15センチの厚さではぎ取った。

実験後の放射線量の減少は劇的で、周囲では0.2~0.3に下がった。居久根除染の有効性が証明され、家の中の放射線量も0.15前後と、避難先だった福島市内のアパートとほぼ変わらなくなっていた。が、新聞などでも報じられたこれらの事実が状況を変えることはなく、国は除染完了を宣言し、予定通り2017年3月末の避難指示解除に至った。

「居久根は農家にとって生活圏。徹底した除染の努力をせず、国が『もう終わった』というなら、俺たちにやらせてほしい。実験の成果、ノウハウはある。住民自身が担い手になる居久根除染に村独自の予算を付け、仲間の帰還を支援する事業にしてほしい」。

啓一さんは訴えたが、国と足並みをそろえ「復興」を宣言したい村から反応はなく、「住民が力を合わせれば、放射線への不安も克服できる」という仲間への呼び掛けも実らぬままだった。

真の復興へ道のりは遠く

啓一さんと共に比曽地区での農業再開を志し、自宅をリフォームして夫婦で帰還した農家、菅野義人さんを、2018年1月22日の拙稿『「避難指示解除」後の飯舘村(上)帰還農家が背負う「開拓者」の苦闘』で紹介した。

環境省は除染作業の後、営農再開支援として村内で、表土のはぎ取りで地力を失った農地にカリウムなどの基本肥料、放射性物質の吸収抑制効果がある土壌改良材ゼオライトを投入し、すき込む工程にさらに1年を掛けた。これは「地力回復工事」という事業名で、除染が遅れた比曽地区では避難指示解除後の2017年度にずれこんだ。しかし、環境省から請け負った土木業者の作業が、現実には遅れに遅れた。義人さんの農地で工事が行われたのは同9月末。ただし、対象は牧草地の跡だけで、いまだ除染土の仮置き場の下にある水田はいつ地元に返されるのかさえ分からない。義人さんは記事の中でこう語った。

〈「9月を過ぎると、標高が高く秋の霜の早い比曽では農繁期を逃す。そもそも『役所仕様』の地力回復工事を当てにできず、一から土作りをしなくてはならぬ手間暇を考えると、貴重な1年が既に無になった。これで何が(避難指示)解除か」〉

除染後の現場に客土された山砂は酸性で農地に向かず、土壌の性質や条件を無視した画一的な肥料投入は、地力回復どころか、そこで牧草を食べた牛の健康を害する懸念もあった。「数年は緑肥作物を育ててすき込み、土作りをする。しばらく収入はないが、農地再生は人間の力でなく土の力あってのことだから」というのが義人さんの考えだ。それ以前に、除染後に露出した大小無数の石の除去や、重機で壊された地下配水管(暗渠)の埋設し直し、客土された山林心土(礫交土)の改良など、その後の自力復興の道のりは過酷だった。

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