原発訴訟で「低額の賠償判決」が相次ぐ理由 地域崩壊や放射能汚染でも被害を「過小」認定

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「不当判決」の垂れ幕を掲げた避難者訴訟(福島県いわき支部)の弁護団(編集部撮影)

福島地方裁判所いわき支部(福島県いわき市)は3月22日、東京電力・福島第一原子力発電所事故により強制避難を命じられた住民が起こした訴訟で、被告の東京電力ホールディングスに損害賠償を命じる判決を出した。その内容を聞いて、原告の小川貴永さん(48)は肩を落とした。

「住んでいた町は壊滅し、仕事も人間関係もすべて失った。それに対しての賠償がわずか150万円にも満たないという。被害と釣り合っているのか」

地元の仲間は散り散りになった

原告216人は「ふるさと喪失」への慰謝料の認定および避難に伴う慰謝料の上乗せを求めてきたが、認められたのはそのうちのごく一部。裁判所は東電に対して、これまでの賠償(避難生活に伴う精神的損害に対する慰謝料)に上乗せする形で「ふるさと喪失」被害への賠償および精神的慰謝料の増額分の支払いを命じたものの、その額は、福島県双葉町や大熊町、楢葉町、南相馬市など避難指示区域(帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域)に住んでいた原告に対して一律150万円、広野町など旧緊急時避難準備区域の原告に対して一律70万円にとどまった。

判決が示されるや否や、裁判所の門前では原告弁護団が「不当判決」の垂れ幕を掲げた。

小川さんが原発事故前に暮らしていた双葉町の自宅は、福島第一原発から3キロメートルしか離れていない。現在も放射線量が高く、町役場の許可無しで立ち入ることができない「帰還困難区域」にある。7年に及ぶ避難生活を強いられている間に住宅の傷みがひどくなり、野生動物が入り込むようになった。

事故が起きる前に営んでいた養蜂業の再建は断念させられ、妻や2人の子どもとは離ればなれの避難生活を強いられてきた。現在、避難者が多く暮らすいわき市内の復興公営住宅団地内で食堂の開店を目指しているが、ゼロからの再出発になる。

地元の神社の氏子総代でもあり、地域とのつながりが深かった小川さんは、原発事故後も双葉町での再建をあきらめようとしなかった。しかし、かつて親交を深めた地元の仲間たちは散り散りになり、高齢化も進んだ。

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