原発訴訟で「低額の賠償判決」が相次ぐ理由 地域崩壊や放射能汚染でも被害を「過小」認定

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取材に応じた診療放射線技師は「放射性同位元素で床などが汚染された場合、まず可能な限り除染した後に汚染部位を取り囲み、大きめに非汚染部位との境界となるテープを貼る。その後は、その汚染区域に立ち入らないようにして、自然放射線レベルになるまで減衰を待つ」とその手順を解説する。

医療現場で用いられる放射性同位元素の半減期はそのほとんどが3日以内と短い。一方、原発事故による汚染はセシウム137が中心で、その半減期は実に30年以上。減衰といっても、気の遠くなるような時間がかかる。

鴨下祐也さん(中央)は被ばくから身を守るために避難生活を続けている(2013年3月の提訴時の会見、編集部撮影)

避難の合理性を認める期間を区切ったのは、3月15日の京都地裁の判決でも共通している。同判決でも国と東電の責任を認め、区域外避難者による避難開始の合理性を事故1年後の2012年4月1日まで認めた。そのうえで、避難時から2年が経過するまでに生じた損害について、事故との「相当因果関係」があるとした。ただし、それ以降については避難の合理性を認めていない。

賠償期間の定め方に問題がある

原子力災害の損害賠償制度に詳しい除本理史・大阪市立大学教授は、昨年3月の前橋地裁以降の7つの判決を検証したうえで、裁判所による被害の認定について「積極的に評価できる側面と、そうでない側面が併存している」という。

「7つの判決では、国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が設けた『中間指針』ではカバーできない損害があると認めたうえで、司法が独自に判断して賠償を命じている。その点は積極的に評価できるが、一方で特に避難区域外について、損害の認定が低額になっている。たとえば区域外避難の合理性に関して、賠償の対象とする期間が短いなど、期間の定め方に問題がある。また、ふるさと喪失に対する慰謝料についても、損害の評価が十分とは言えない」(除本教授)

前出の福島地裁いわき支部での訴訟で原告弁護団幹事長を務める米倉勉弁護士は、認定された賠償額について、「あまりにも低すぎる」としたうえで、「裁判所が被害の実態について、原告側の主張をほぼそのまま受け入れた」ことや、「避難者について一律でふるさと喪失を含む損害について賠償の必要性を認めたこと」を、控訴審における賠償額上乗せの主張の足掛かりにしたいとする。

福島原発事故から7年が経過する中で、双葉町、大熊町、浪江町や富岡町、葛尾村の一部などを除く福島県の浜通地区ではすでに避難指示が解除され、住民の帰還が始まっている。しかし、働き盛りや若年層を中心に戻らない世帯も多い。

楢葉町からいわき市内に避難した金井直子さん(52)は、PTAの活動を長く続ける中での家族ぐるみでの付き合いが、原発事故をきっかけに断ち切られた。現在でこそ避難指示は解除されたものの、「隣近所は戻ってきておらず、町は変わり果ててしまった」(金井さん)。

金井さんはいわき支部での避難者訴訟に参加し、被害の実態を訴えてきた。判決後の集会で金井さんはこう述べた。「原発事故がひとたび起こると、何もかも奪われてしまう、その重大性が矮小化されていることに危機感を感じている。当事者として声をあげ続けていく」。

この問題意識こそ、共有されなければならない。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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