そのうちに奈緒子さんは症状が進んで休職をする。2年ほどの間、慎吾さんの収入だけで2人暮らしをしていた。そして、別れを切り出したのは奈緒子さんのほうだった。
「あなたと一緒にいると、甘えちゃって私がダメになる」
慎吾さんはショックを受けつつも奈緒子さんの決断を受け入れるしかなかった。2人の部屋から出ていく彼女のために引っ越し費用を払い、新居の連帯保証人にもなった。慎吾さんがいい人すぎるところが奈緒子さんにとっては毒だったのかもしれない。
5年間のブランクを経て、慎吾さんは由香里さんと巡り合う。このへんからは仕事帰りで遅れて「ぷあん」に来てくれた由香里さんに話してもらおう。
母親も満足する理想的な結婚ができると思ったが…
色白でショートカットの由香里さんは、刺しゅう入りの白いブラウスに赤いストールを上手に合わせている。オシャレ男子の慎吾さんとお似合いである。性格は慎吾さんよりも外向的で、飲み方も笑顔も魅力的だ。しかし、20代までは母親との関係に悩み、鬱々としていたと告白する。
「小学校時代から、母から無視をされたり『あなたなんて産まなければよかった』と言われたりして育ちました。大人になってからは母のことをあまり考えないようにしていたのですが、最初の夫とは母に祝福してもらうために結婚したようなものです」
現在はフリーライターをしている由香里さん。当時は出版社に勤務しており、趣味は「いい建築を見て回ること」。学生時代はインテリアの勉強をしていたこともあり、建築士へのあこがれの気持ちが強かった。
最初の夫である恵一さん(仮名)は一流大学を出てすでに実績のある建築士。背も高くて見栄えがよく、年齢は1歳年上、実家同士の距離も近い。自分だけでなく母親も満足する理想的な結婚ができると由香里さんは思った。
「彼はせっかちな人だったので、付き合ってから数カ月で結婚話を進めてしまいました」
しかし、結婚式の席順からして由香里さんは恵一さんの家族と溝ができてしまう。由香里さんの両親は離婚はしていないが非常に不和のために披露宴での席を離すことを希望。一方で、恵一さんの両親はすでに離婚しているが仲がいい。席も隣同士だ。
「彼の親から『夫婦なのに席を離すのはおかしい』と指摘されました。確かにそうかもしれないけれど、離婚している人たちに言われたくありません」
恵一さんの母親はある新興宗教を信仰しており、結婚後は由香里さんを勧誘し始めた。恵一さんはそれを止めないどころか、デザイナーとして活躍する由香里さんに「専業主婦になってくれ」と希望。家事も家計管理もすべて押し付けた。
「彼のお母さんはスーパー主婦で、家の中をすごくキレイにしていました。私は仕事で帰りが夜遅くなることもあり、とてもそこまではできません。せめてお金は節約しようと思ってちょっとでも安いスーパーを探して買い物をしていたのですが、あるとき彼から『なんでこんなに金がかかるの?』と言われてしまいました。彼は一人暮らしの経験がなかったので、生活にどれぐらいお金がかかるのかわかっていなかったようです」
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