原油価格が年末にかけて一段と上昇するワケ 1バレル=65ドル以下には下がりにくい?

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こうした調査をみれば、少なくとも、将来の増産に向けては、最低でも61ドル以上、できれば65ドル以上の原油価格の水準が必要だったことがわかる。また、最近の調査では、さらにコストが上がっているようである。

上がる賃金と物流コスト、生産効率も低下

同国のカンザスシティ地区連銀が7月に実施した、管轄地域のシェール企業が掘削の拡大に必要と考える原油価格の水準は、すでに69ドルにまで上がっているようだ。半年前の調査では62ドルだったことから、この半年で7ドルも上昇したことになる。

コスト上昇の背景には、労働者の確保や賃金の上昇があるとみられている。また、主要シェール鉱区から原油を送り出すパイプラインの能力にも限界がきており、石油掘削リグ稼働数が頭打ちになっていることも、生産量の伸び悩みにつながっているようである。事実、直近のリグ稼働数は860基前後で頭打ちである。

問題はそれだけではない。シェール生産地域の生産量の動向を見ると、現在生産量が伸びているのは、テキサス州とニューメキシコ州にかかるパーミアン地区のみである。この地域での産油量が急増したことで、シェールオイルの生産量が急拡大したのだが、ここで2つの問題が起きている。

ひとつは、リグ当たりの産油量の低下である。つまり、生産効率が明らかに鈍化しているのである。これは、生産コストの上昇につながることになる。もうひとつは、これまでの産油量の増加で輸送力が追いつかなくなっている点である。

パーミアン地区の8月の生産量は日量340万バレルで、この1年で約4割増加している。しかし、この地域からの輸送能力は日量350万程度であり、ほぼ限界だ。

新しいパイプラインの稼働は2019年の予定であり、それまでは輸送にも限界がある。こうした状況もあり、国際エネルギー機関(IEA)は、今年のアメリカ・シェール企業の生産コストは前年比11%増加すると予測している。また、米エネルギー情報局(EIA)も、2018年の同国の原油生産量の見通しを前年比14%増に下方修正している。

これらの主要機関も、ようやくコスト増の現実に目を向け始めたといえるだろう。実際には、アメリカの産油量は増えている。しかし、想定よりその伸びが鈍化すれば、市場はこれを強気材料ととらえるのが常識なのだ。

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