売却は可能?西友の「適正価格」を大胆試算 関東の店舗の不動産価値を独自ランキング

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23店の合計は約280億円となった。相続税の算定根拠となる路線価は、実勢価格に近い公示地価の8割といわれる。とすれば、西友が関東に持つ土地は約350億円という試算が成り立つ。地方にも33店の自社物件があり、北海道の手稲店や京都の山科店、福岡の春日店などが自社物件であることが確認できた。ただ、資産の中心は関東だろう。

「2000億円でも高い」

この試算に対し、2000年代半ばに産業再生機構でダイエーの再生計画立案に携わった松岡真宏氏(現・経営支援会社フロンティア・マネジメント代表)は、「350億円という数字は、思ったほど多くない」と語る。

小売り企業の価値は、店舗の不動産価格か、店舗が将来生むと期待されるキャッシュフロー(CF)のどちらか大きいほうを取ることが多い。

西友の業績にはさまざまな見方があるが、本誌の取材によると、16年度の売上高は約7800億円、営業利益は100億円近くとみられる(単独決算ベース)。

西友は老朽化した店舗が多く、建物の償却費はそれほど大きくないと推定できる。となれば、EBITDA(減価償却前の利益)は100億円+α。その10倍を事業面から期待できるCFとすれば、西友の企業価値は1000億円強となる。

実は、ウォルマートの年次報告書によると、西友には2018年1月時点で1800億円の長期借入金がある。買収の際には一定のプレミアムを乗せるのが通常だが、それを考慮しても、3000億円という数字はこの借入金の肩代わりを含めた額ではないか。

3000億円という数字に業界内では「それはない。高すぎる」(地方の食品スーパー幹部)といった声がある。実際、渦中のドンキHDの関係者も「2000億円でも高い」と打ち明ける。

買収後には店舗の統廃合や改装も必要になる。前出の松岡氏は、産業再生機構がダイエーの150店舗を継承する際、改装だけで「2年間で600億円もの関連費用が発生した」と言う。さらに主にGMSで展開する非食品部門をどう立て直すかという難題がある。結局、うわさされる額で西友を丸ごと買収する企業は出てこないだろう。

西友の339店のうち287店が食品スーパー。西友の魅力は首都圏を始め特定エリアに「食品をドミナント(集中)展開している価値につきる」(松岡氏)。となると、資金力のある外資系投資ファンドが乗り出し、資産の一部を切り離して売却していく解体ストーリーが現実味を帯びてくる。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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