渡邉恒雄と川淵三郎、「犬猿の仲」の和解劇 大論戦勃発から25年、初対談で語られた本音

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結果としてあの論争は、Jリーグの理念を明確にしてわかりやすく説明する訓練に役立った。話題になっていることで、テレビ朝日の「ニュースステーション」(当時の番組)にたびたび呼んでもらい、理念を話す機会をもらえた。そのおかげで、地域密着や企業スポーツからの脱皮といったJリーグが目指す姿が、広く深く理解されていったと思う。

今では当たり前のようになっているプロスポーツと地域との関係だが、あの頃は「地域に根ざしたスポーツクラブ」や「スポーツを文化に」といった意味が人々に理解されていなかったのだ。

後年、バスケットボールに関わるようになってBリーグをつくるときに、あらためて、渡邉さんとの論争の効果を感じた。渡邉さんがいたから、そしてマスコミがいたからこそ、Jリーグは多くの人々の理解を得られたのだ。

いずれにしろ僕にとってはかけがえのない存在なのだが、それはあくまでも僕の気持ち。渡邉さんはどう思っているのだろうか。

いつかはきちんと話してみたい、当時の話をご本人の口から聞いてみたいという願いを伝えると、何と対談を快諾してくださった。そして初めてあのときのことについてお話をしてみると、いろいろとわかったことがあり、実りの多い対談となった。

当時の騒動のときの意外な本音

たとえば、当時の騒動についての意外な受け止め方を知ることができたのは収穫の1つだ。メディア界の頂点にいる渡邉さんと論戦することになったのは、「参ったなあ」というのが僕の実感だった。しかし、渡邉さんのほうも実はそれなりに大変だったというのだ。

渡邉さんは、対談でこんな話をされた。

「実はあの『論争』では僕のほうこそ勝ち目はないと思っていました。僕はサッカーというものを見たこともやったこともない。そんな素人ですからね。

まあそれを言えば野球だってそうです。いつの間にか野球の専門家みたいに言われることもあったけれども、ボールを握ったこともバットを振ったこともない。

ところが川淵さんは純粋スポーツ人間で、大変な専門家だ。

僕はスポーツといえば、中学、高校の正課で柔道を、あとは軍国主義下だったから銃剣術をやった程度です。氏家(斎一郎氏)は高校の時からサッカーに熱中していましたがね。彼から話を聞いて、サッカーというのはボールを蹴っ飛ばす競技だな、というくらいはわかっていましたが、その程度です。

もともと野球についても似たようなものでした。それでも野球の世界であれこれ言うことができたのは、野球協約についてはどのオーナーよりも徹底的に読み、研究してきたからです」

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