88歳祖父の死に「おめでとう」と言う孫の真意

「笑顔の通夜」を実現したある家族の軌跡

祖父・稔が趣味で書いていたTシャツ画。通夜の際には周囲に華やかに並べられた(写真:編集部撮影)

若さゆえの感性なのか、「おめでとう」には少し戸惑うが、200人以上を抱きしめて看取ってきた、社団法人日本看取り士会の柴田久美子会長(65歳)は、阿南の感想について何の不思議もないと話す。初めて身近で経験する肉親の死が、その人にとっての「標準」だからだ。

「結局、子どもにとっての死を『冷たくて怖いもの』にするのも、『温かくて幸せなもの』にするのもすべて大人なんです。大人が肉親の死を必要以上に怖がって遠ざけ、忙しさを口実に病院に任せきりだと、それを見た子どもたちは『死は冷たくて怖いもの』と思い込んでしまいます」(柴田会長)

この記事を読むあなたは、どちらだろうか。

幸せに看取るために肌の触れ合いを持つ

稔が肺気腫(肺の内部が潰れたり、気管支が細くなったりして息を吐き出しにくくなる病気)で他界した翌月、中屋敷は以前から養成講座で学んでいた、看取り士の資格を取得している。

彼女が興味を持った理由は、前出の柴田会長が人を抱きしめて看取ると知り、カルチャーショックを受けたからだ。中屋敷も介護士として終末期の人の手や腕を握ったり、さすったりしたことはあった。だが、依頼を受けたとはいえ、家族でもない人がそこまで踏み込める理由を知りたかった。

仲が良かった祖父・稔と孫の阿南(写真:中屋敷さん提供)

「父は自宅近くの病院で早朝5時過ぎに逝ったのですが、私はその日泊まり勤務で、死に目にはあえませんでした。だけど、自宅に戻った父の遺体に触れると、言葉が自然と出てきたんですよ。『お疲れさま』とか、『ありがとう』とかね。それに肉親だったせいか、触れることで父が自分の内側にいるような感覚が芽生えました」(中屋敷)

肌の触れ合いを持つことは、以前この連載でも紹介した看取り士の「幸せに看取るための4つの作法」の1つ。中屋敷は看取り士養成講座での学びがあって、弔問客にも父の遺体に触れてもらおうと考えたのだ。

父の遺体に触れていると、背中以外は次第に冷たくなっていったと、中屋敷は続けた。「それでも、まだ物体にはなっていないというか、部屋全体にまだ父の気配が残っている感じがありました。阿南も、『じいじ、まだ(ここに)おるよね』って話してましたし」

中屋敷は「父が自分の内側にいるような感覚」を手にしたことで、養成講座で学んだ、もう1つの教えも実感できたという。

「人間はいい心と魂、健康な体を持って生まれてくる。もし自分が死によって体を失っても、親から授かったいい心と魂は家族に引き継がれる。だから死は怖くない」。

特別なことではない。肉親の遺影にふと話しかけたり、生前の姿が思い浮かんだりするとき、人はとても素直な気持ちになっている自分に気づく。お盆の際に仏壇に手を合わせれば、亡き親に少しでも喜んでもらえる人生を送りたいという思いを新たにするだろう。どちらも自然なことだ。

次ページ父の死と当時30歳の兄の死の決定的な違い
ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 憧れから一歩前へ! キャンピングカーのある日常
  • 映画界のキーパーソンに直撃
  • ソロモンの時代―結婚しない人々の実像―
  • iPhoneの裏技
トレンドライブラリーAD
人気の動画
京セラのガラパゴススマホ「トルク」がたどり着いた境地
京セラのガラパゴススマホ「トルク」がたどり着いた境地
「人のために働く職業ほど低賃金」な根深い理由
「人のために働く職業ほど低賃金」な根深い理由
「雑談で笑いを取れない人」が知らない基本原則
「雑談で笑いを取れない人」が知らない基本原則
渋谷駅、谷底に広がる超難解なダンジョンの今
渋谷駅、谷底に広がる超難解なダンジョンの今
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
激動相場に勝つ!<br>株の道場

6月18日発売の『会社四季報』夏号が予想する今期業績は増収増益。利益回復に支えられる株価が上値を追う展開になるか注目です。本特集で株価が動くポイントを『会社四季報』の元編集長が解説。銘柄選びの方法を示します。

東洋経済education×ICT