日本が「米中貿易戦争」に無策すぎる根本理由 地政経済学的に正しい中国の「富国強兵」戦略
こうしてみると、世界の大きな構造変化に対して、中国は、地政経済学的に正しい「富国強兵」戦略を講じているのがわかる。
これに対してわが国は、ほぼ無策に等しい。中国のマッキンダー的な戦略の意図はもちろん、世界の地政経済学的構造に起きている地殻変動の意味すらも、理解していないようにみえる無策ぶりである。
もっとも、中国の「一帯一路」構想は、地政経済学の理論上は正しいとは言えるが、それが構想のとおりに実現するかどうかは、不透明な部分がある。
たとえば、鉄道などのインフラの整備計画が必ずしも経済合理的ではなかったり、計画どおりに進まなかったりするリスクがある。あるいは、アメリカに対する報復関税や内需拡大が過度なインフレを招き、中国の政治的・社会的基盤を動揺させる可能性もある。
また、中国の勢力圏の拡大を周辺国が警戒し、それに対抗する動きが出るかもしれない。すでにマレーシアは、反中国を鮮明にするマハティール首相の下で、「一帯一路」構想関連の主要事業を廃止することを宣言している。おそらくマハティールは、中国の「一帯一路」構想の地政経済学的意図を警戒しているのであろう。
これに対して中国は、マレーシアとの関係修復を目指している。やはり、米中貿易戦争によって「一帯一路」構想の重要性が増しているのだ。
日本が無策である大きな原因
中国の「一帯一路」構想が失敗する可能性は確かにある。しかし、失敗に終わった場合には、中国が周辺国との対立を激化させる可能性が高まることを懸念しなければならない。国内の不満を逸らし、国内社会の連帯を高めるために、国外に敵を設定してナショナリズムをあおるというのは、常套手段だからである(朝鮮半島全域が「中国の勢力圏内」に収まる日)。
その際、中国が設定する敵国の筆頭は、言うまでもなく日本だ。しかし防衛予算ひとつとっても、わが国がその備えを十分にしているとは思えない。
「一帯一路」構想が成功しようが失敗しようが、いずれにせよ、日本がこれに対して無策であるという事実に変わりはないのだ。
この日本の無策の大きな原因となっているのが、「日本は財政危機であり、これ以上、財政赤字を拡大してはならない」という思い込みである。この思い込みこそが、「富国」(財政出動による内需拡大)と「強兵」(防衛予算の拡充)を妨げている。財政健全化論が、日本の「貧国弱兵」を正当化していると言ってもよい。
しかし、これまでも繰り返し指摘したとおり、日本は財政危機ではない(「財政赤字の拡大」は政府が今やるべきことか、自然災害対策と「財政問題」は、分けて考えろ)。
日本政府が発行する国債はほぼすべて自国通貨建てであるが、自国通貨建て国債が債務不履行になるということは、理論上ありえず、歴史上も存在しない。日本が債務不履行に陥ることなど、ありえないのだ。
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