日本が「米中貿易戦争」に無策すぎる根本理由 地政経済学的に正しい中国の「富国強兵」戦略
たとえば、習近平国家主席は、北京を訪問したプーチン大統領に友好勲章を授与し、中ロ関係の緊密さを強調した。加えて、ロシアの極東における軍事演習に、中国が参加することとなった。ロシアと中国が接近するであろうという筆者の予測のとおりである。
また、筆者は、積極財政による内需拡大と防衛費の拡充を主張したのだが、この戦略を採ったのも、日本ではなく、中国であった。中国は、四川やチベットなどの鉄道投資を1兆円上積みすることを決定したのである。
この措置は、アメリカの関税引き上げによって輸出先を失った鉄鋼の需要を国内に創出するという意義があるが、それだけではない。
中国内陸部国境付近への鉄道投資とは、ユーラシア大陸内陸部に一大経済圏を構築せんとする「一帯一路」構想を支える重要な柱なのである。そして、鉄道とは、経済活動のための輸送インフラにとどまらず、兵站(へいたん)を支える軍事的なインフラでもある。
およそ1世紀前、地政学の開祖ハルフォード・マッキンダーは、ユーラシア大陸内陸部を制する者が世界を制すると唱えたが、その際、彼が着目したのも、ユーラシア大陸を横断する鉄道の建設であった。中国の「一帯一路」構想とは、鉄道建設によってユーラシア内陸部を勢力圏下に収めるという、まさにマッキンダー的な戦略なのである。
この「一帯一路」構想の地政学的な重要性については、アメリカ国防総省が8月に発表した2018年の年次報告も、注意を喚起している。同年次報告は、「一帯一路」構想に基づく投資のいくつかが中国軍の兵站の整備に資することとなり、中国に軍事的な優位をもたらす可能性を指摘したのである。
要するに、トランプ政権が中国に対して仕掛けた貿易戦争は、皮肉なことに、国防総省も警戒する「一帯一路」構想を加速化するという副作用をもたらしつつあるということだ。
日本の安全を脅かす地政学的変化
さらに、この国防総省の年次報告によれば、中国海軍は、敵前上陸などを担う「陸戦隊」(いわゆる海兵隊)を、現状の約1万人規模から2020年までに3万人規模超にまで拡大させる計画だという。これが、台湾や尖閣諸島の占拠などを視野に入れた兵力の増強であることは明らかである。
「ユーラシア大陸内陸部を勢力圏におさめたら、中国は、今度は南シナ海、そして東シナ海への進出を本格化させるであろう。要するに、日本の安全が危うくなるような地政学的変化が引き起こされるのだ」
この筆者の悪い予感が早くも的中した格好である。
中国は、2018年予算案において、国防費を前年実績比で8.1%増額した。これについて李克強首相は、「国家の主権・安全保障・利益を断固として力強く守らなければならない。強固で現代的な国境・領海・領空の防衛体制を構築する」という意図を明確にしている。
これに対して、日本の防衛費の伸びは、ほとんど横ばいである。その結果、中国の国防予算は日本の3.7倍となった(参考1、参考2)。
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