教科書すら読めない人を襲う「AI失業」の恐怖 計算が得意な機械に勝つには読解力が必須だ

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高校生の半数以上が、教科書の記述の意味を理解できていない。事実、8割の高校生が東ロボくんに敗れている。記憶力(正しくは記録力)や計算力、統計に基づく大まかな判断力は、東ロボくんは多くの人よりはるかに優秀。

そのような状況下において、AIがいまある仕事の半分を代替する時代が間近に迫ってきているということだ。これがなにを意味するか、社会全体で真摯に考えないと大変なことになると新井氏は警鐘を鳴らしている。

つまり求められるのは、意味を理解する能力である。

AIと共存する社会で、多くの人々がAIにはできない仕事に従事できるような能力を身につけるための教育の喫緊の最重要課題は、中学校を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすることです。世の中には情報は溢れていますから、読解能力と意欲さえあれば、いつでもどんなことでも大抵自分で勉強できます。
今や、格差というのは、名の通る大学を卒業したかどうか、大卒か高卒かというようなことで生じるのではありません。教科書が読めるかどうか、そこで格差が生まれています。(241ページ)

では、読解力を養うためにはどうしたらいいのだろうか? 残念ながら、それを解明する科学的な研究はいまのところないようだ。しかし、中学卒業までに中学校のどの科目の教科書も読むことができ、その内容がはっきりとイメージできるようなリアリティのある子どもに育てることがなにより大切だと新井氏は強調している。

しかし現時点では、人間にしかできないタイプの知的労働に従事する能力を備えている人は、全体の20%にすぎないという可能性があるのも事実。また、その一方、新井氏が手がけたRSTの全国調査で明らかになったのは、日本人の決定的な教科書読解力の不足である。

AIに優位に立てるはずの読解力が身についておらず、しかも日本の教育が育てているのは、いまもAIによって代替される能力。だからこそ、いち早く読解力をつけなければならないということだ。

「AI恐慌」がやってくる

では新井氏は、そんな状況下で未来をどう予測するのだろう。

私の未来予想図はこうです。
企業は人手不足で頭を抱えているのに、社会には失業者が溢れている――。
折角、新しい産業が興っても、その担い手となる、AIにはできない仕事ができる人材が不足するため、新しい産業は経済成長のエンジンとはならない。一方、AIで仕事を失った人は、誰にでもできる低賃金の仕事に再就職するか、失業するかの二者択一を迫られる――。私には、そんな社会の姿がありありと目に浮かびます。そして、それは日本にだけ起こることではありません。多少のタイムラグはあるとしても、全世界で起こりうることです。
その後にやってくるのは、「AI恐慌」とでも呼ぶべき、世界的な大恐慌でしょう。それは、1929年のブラックサーズデーに端を発した世界大恐慌や、2007年のサブプライムローン問題が引き金となりリーマンショックを引き起こした第二次世界恐慌とは比較にならない大恐慌になるのではないかと思います。そのストーリーだけは何とかして回避しなければなりません。
それを回避するストーリーは、「奪われた職以上の職を、生み出す」以外にはないのです。しかも、それは一物一価に収斂する自由経済の原理に呑み込まれないような方法でなければなりません。(273〜274ページより)

とはいえ、はたしてそのような方法があるのだろうか? このような危機的状況を突きつけられると決して楽観的な気分にはなれないが、新井氏は最後に、私たちが生き延びるための「唯一の道」を提示してもいる。

しかも、たしかにそこには可能性を感じる。はたしてどのようなものなのか、それはぜひとも本書で確認していただきたい。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

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